ジェフ・アトキンソン

 

ジェフ・アトキンソン

ジェフ・アトキンソン

米国では、離婚後の子供の親権については、連邦法ではなく各州の法律が規定している。従って、50州およびコロンビア特別区(首都のワシントンDC)に、それぞれ独自の法律がある。各州の法律は、おおむね類似している。

両親が離婚した後の子供の親権は、その子供の最善の利益に基づいて決めるものとされている。法律では、父親と母親は同等に扱われるものとされており、いずれの親も、性別に基づいて自動的に優先して親権を与えられることはない。1960年代または70年代までは、ほとんどの州が「母親優先の原則(Tender Years Doctrine)」を採用し、母親が親として適格でさえあれば、自動的に母親に親権を与えていた。その後、米国では、離婚に伴う紛争においても、職場においても、男女平等の原則が普及していった。

子供の親権の決定に際しては、「共同親権(共有親権)」と、面接交渉権付きの「単独親権」という主な選択肢がある。

共同親権

共同親権の概念が生まれたのは1970年代のことである(ほぼ同時期に、法律によって父親と母親を同等に扱うことが定められた)。共同親権には2つの要素がある。ひとつは、「法的共同親権」と呼ばれるもので、これは、子供に関する主要な決定をする権利を、両親にそれぞれ平等に与えるものである。主要な決定とは、子供の教育、医療、および宗教教育に関するものであるが、そのほかにも、子供の課外活動や、何歳からデートや車の運転を許可するか、などについての決定が含まれることもある。法的共同親権の下では、両親は協力して共通の決定を下すよう指示される。両親が合意できない場合には、裁判所がいずれかの親を選んで決定させることもある(ただし、宗教に関して両親の意見が合わない場合は、両親共に、子供に悪影響を与えない範囲で、それぞれの宗教に子供を触れさせる権利を有する)。

共同親権のもうひとつの要素は「物理的共同親権」である。これは、子供がそれぞれの両親とどれだけ時間を過ごすかに関するものである。物理的共同親権の下では、子供はそれぞれの両親とかなりの時間を一緒に過ごす。同じだけの時間を一緒に過ごしてもよいが、同じでなくてもよい。両親のそれぞれと同じ長さの時間を過ごす例として、1週間ごとに交互にどちらかの親と過ごす方法がある。また、2日間片方の親と過ごしてから2日間もう一方の親と過ごし、続いて5日間片方の親と過ごしてから5日間もう一方の親と過ごし、この周期を繰り返す、という方法もある。同じ長さの時間を過ごすというやり方が機能するためには、通常、両親がお互いに近くに住んでいなければならない。また、両親が相互に協力的であることも極めて有用である。

すべての州が、共同親権を子供の養育の選択肢として規定している。共同親権を法的推定としている州もある。それらの州では、当事者同士が他の方法を選ぶことで合意した場合や、共同親権が子供の最善の利益にならないとの証拠がある場合を除き、裁判所は共同親権を命令することになっている。

単独親権

離婚後の子供の養育におけるもうひとつの選択肢は、単独親権である。単独親権の下では、子供はほとんどの時間を片方の親と過ごし、その親が、教育や医療など子供に関する主要な決定を下す権利を有する。もう一方の親には、一定の時間を子供と共に過ごす権利が与えられる。これを通常「面接交渉権」という。

離婚紛争で使われる用語に対して、一部の親や議員は異議を唱えている。「親権」を意味する「custody」という言葉には、財産の「管理」という意味もあるため、子供を養育する機会というより、ひとつの財産の所有をめぐる争いのようなニュアンスがある。また米国では、「面接交渉権」を表す「visitation」という言葉は、刑務所に収監されている人に制限付きで面会することを指す言葉でもある。こうした従来の用語に対する反対意見に鑑み、一部の州の法律では、離婚した親が子供と過ごす時間のことを、「単独親権」や「面接交渉権」という言葉を使わず「parenting time(養育時間)」と呼ぶようになっている。

単独親権と面接交渉権から成る取り決めの下では、親権を持たない親(単独親権を持たない親)と子供が共に過ごす時間は、通常以下のように決められている。

  • 隔週末(金曜の夜から日曜の夜までという場合が多い)
  • 週に一度平日の夜(通常夕食を含む)
  • 主な祝日のうち半数
  • 夏期の数週間

米国の法律の下では、親権を持たない親には、子供との接触によって子供に害が及ぶことが明らかな場合を除き、面接交渉権(あるいは養育時間)が与えられる。米国最高裁判所は、米国憲法の下で「生みの親には、子供の保護監督、養育、および管理に関する基本的自由権」がある、と宣言している。最高裁は、これは「いかなる財産権より貴重な権利」である、と述べている。さらに、米国の社会科学者や精神衛生の専門家による数々の研究によると、子供は、積極的に関与する2人の親に育てられた場合に最も良い状態となることが明らかになっている(ただし親同士が常に争っている場合は別である)。

親に子供と接触させないようにするには、例えば子供に対する虐待や親の重大な精神疾患など特殊な状況のあることが証明されなければならない。親が子供を虐待した場合や、親に重大な精神疾患のある場合でさえも、裁判所は、親と子が裁判所の監督下で接触することを許可する可能性がある。

親権決定の要因

親権をめぐる裁判の90%以上は、両親の合意によって解決される。両親は、弁護士を雇う場合も雇わない場合もあるが、いずれにしても裁判所に出廷し、判事が両親の合意を反映した命令を出す。親権について両親が合意に達することができず、判事が決定を下さなければならない場合、判事は数々の要因を考慮する。

最も重要な要因のひとつは、それまでいずれかの親が主に子供の世話をしてきたか、という点である。いずれかが主に子供の世話をしてきた場合、すなわち子供の日々の養育において、もう一方の親より、はるかに大きな責任を負担してきた場合には、その親に主な親権を与える大きな要因となる。子供が小さい場合には、この要因が特に重要となる。子供が成長するにつれて、この要因の重要性は低下する。また、両親共に子供の養育に積極的に関与してきた場合も、この要因の重要性は低くなる。

裁判所は、両親のうちどちらに対して子供がより親密なつながりを感じているか、また両親のうちどちらが子供のニーズをよりよく満たすことができるか、ということも検討する。この点に関しては、両親の証言に加えて、友人、隣人、子供の学校の先生、および当該ケースを評価した精神衛生の専門家の証言を証拠とすることができる。

場合によっては、判事が、親のいないところで子供と話をし、子供が両親のそれぞれをどう思っているかや、両親のどちらと暮らしたいかを聞いたりすることもある。判事が子供の選択にどの程度重きを置くかは、その子の年齢、成熟度、および選択の理由の質によって異なる。

前述のように、親権をめぐる裁判においては、判事は親の性別に基づいてどちらかを選ぶことをせず、子供の最善の利益とそれぞれの裁判の事実に基づいて判決を下すものとされている。しかしながら、親の性別によって先入観を持つ判事がいる可能性もある。例えば、母親の方が生来育児に向いていると考えたり、大きくなった男の子を育てるのは父親の方が向いていると考える判事がいるかもしれない。裁判の記録にそのような先入観が表れている場合は、上級裁判所で判決が覆される可能性がある。

一例を挙げると、ある裁判で予審法廷の判事が、父親は「息子たちと一緒になって、運動、釣り、狩猟、機械を扱う練習など、男の子が関心を持つさまざまな活動に参加することができる」として、9歳と11歳の息子2人の親権を父親に与えた。しかし、その裁判の記録には、息子たちが狩猟や機械の扱いに関心があることや、また判事の挙げた各分野で父親の方が母親より優れた技能を持つことが明らかにされているわけではなかった。実際には、息子たちを釣りに連れていく回数は、父親よりも母親の方が多かった。州の最高裁判所は、息子たちのこれまでの人生の大半において母親が主として彼らの世話をしてきており、彼らの学校での活動にも母親がより深く関与してきたとして、先の判事の判決を覆し、母親に親権を与えた。

親権の変更

親権の決定は変更することが可能である。両親が親権変更に合意すれば、米国の裁判所はほぼ例外なく、その合意を反映した命令を出す。両親が、裁判所を介さず、自分たちだけで親権を変更することもある。

両親のうち一方が親権の変更(例えば単独親権の獲得)を望んでいるが、もう一方はこれに同意していない場合、裁判所は、子供の生活の継続性を促進し子供にとって最善の道を選びながらも、訴訟のストレスと費用を回避する、という競合する利害関係のバランスを取ることを目指す。紛争となった裁判で親権の変更が行われるためには、通常、(1)以前に親権に関する命令が出されてから、相当な状況の変化があったこと、および(2)親権の変更が子供の最善の利益となること、という2つのことが証明されなければならない。

親権変更の可能性のある状況の事例としては、大きくなった子供が、親権のない親と暮らしたいとの強い(そして十分な根拠のある)希望を表明した場合や、子供と敵対する継父あるいは継母との間に対立関係が続いている場合、あるいは、子供が学校や地域社会や親権のない親との間に強いつながりを持っているのに、親権を持つ親がその子供を連れて遠い州に引っ越そうとしている場合、などが挙げられる。

非嫡出子

離婚に伴う親権決定の原則は、非嫡出子の親権決定にも適用される。ただし、そうした原則が適用されるためには、まず当該の子供の実父を確定しなければならない。その手段としては、当事者同士の合意(例えば、父親の名前を子供の出生証明書に記載する)、あるいは裁判所による父子関係の確定がある。父子関係が確定されるまでは、母親が自動的に親権を与えられる。

父子関係が確定されると、裁判所は、子供の最善の利益に従って親権を決定する。裁判所が考慮する要因として、乳児の親権を母親に与えることの利点、出生から親権をめぐる審問までの期間に子供の世話をしてきた親に与えることの利点、などがある。

親権に関する米国の法律を説明するための想定事例

子供の親権に関する米国の法律を説明するために、2つの想定事例を以下に挙げる。

【事例1】

ジョンとスーザンは結婚して12年、ステーシー(10歳)とジョセフ(8歳)という2人の子供がいる。ジョンはコンピューター会社の電気技師、スーザンは製薬会社の営業をしている。ジョンもスーザンも子育てに積極的に関与してきたが、日常の子供の世話にはスーザンの方がジョンより多く関わっている。ジョンは子供たちのサッカー・チームのコーチを務めている。学校の先生との面談には両親共に出席している。2人の結婚生活における問題には、ジョンと妻の両親との不和、ジョンが他の女性と親密な関係を持ったこと、そしてお金の使い方をめぐる争いなどがある。ジョンとスーザンは離婚することに決めたが、両人共にステーシーとジョセフの第一親権者になることを希望している。

ジョンとスーザンはそれぞれ弁護士を雇い、双方の弁護士が、離婚と子供の第一親権者となることを求める書類を裁判所に提出している。裁判所の規則により、緊急事態がなければ、裁判官は、父親と母親が調停によって紛争を解決する努力をするまでは審理を行わない。調停のプロセスは、精神衛生の専門家によって行われることが多く、調停員が当事者らと協力して、自主的な和解を目指す。当然のことながら、親にとっても子供にとっても、自主的な和解の方が訴訟よりストレスが少なく、通常は費用も少なくてすむ。調停員が当事者らに和解を命じることはできない。両親が和解に至ることができない場合には、裁判官による審理を受ける権利がある。

ジョンとスーザンの住む都市では、裁判所が調停サービスを提供しており、当事者は訴訟をする場合の提訴費用以外には無料である。地域によっては、調停サービスが有料となる場合もある。調停員との第1回の話し合いで、ジョンとスーザンは、それぞれ相手に対する強い怒りを表した。スーザンは、ジョンが他の女性と関係を持ったことに激怒している。ジョンは、スーザンの両親が絶えず干渉をすると考えており、それに対して腹を立てている。そして双方共に経済的な問題について怒りを感じている。調停員は、双方の怒りは理解できると述べた上で、ジョンとスーザンに、相手に対する怒りより子供たちの最善の利益に意識を集中させようとした。

調停員は、自分が子供たちと面談することが役に立つと思うかとジョンとスーザンに尋ねた。ジョンとスーザンが同意したので、調停員はまずステーシーとジョセフの2人一緒に、次に1人ずつ面談を行った。面談の後、調停員は、ジョンとスーザンに、子供たちは父親にも母親にも愛情と愛着を感じていること、そして子供たちは両親にけんかをやめてほしいと願っていることを伝えた。子供たちは、父親と母親のどちらと暮らしたいかということについて、希望を述べなかった。

調停員は、子供の発育の原則と、ステーシーとジョセフの必要としていることについて説明した。調停員の助力もあり、ジョンとスーザンは、子供たちが父親とも母親とも良好な関係と変わらぬ接触を保つことが子供たちの利益になる、という点で合意した。

ジョンとスーザンは共同親権の取り決めに同意した。この取り決めでは、両親共に子供に関する主要な決定に関与することになる。彼らの養育計画には、物理的共同親権も規定された。子供たちは、1週間のうちほぼ4日間をスーザンと過ごし、3日間をジョンと過ごす。ジョンとスーザンは相互に3キロメートル以内の距離のところに住む予定である。ジョンは引き続き子供たちのサッカー・チームのコーチを務め、両親共に引き続き子供たちの学校の活動に関与する。

ジョンとスーザンは、少なくとも6カ月ごとに、この取り決めがうまくいっているかどうかを話し合い、何らかの形で取り決めを変更することが子供たち、あるいは自分たちのためになるかを判断することに同意した。ジョンとスーザンは、自分たちが子供たちに関する重要な問題について同意できない場合には、再び調停員に相談することに同意した。

ジョンとスーザンは、それぞれの弁護士の力を借りて、子供たち(および離婚に関するその他の問題)に関する和解契約を結んだ。そして判事が命令に署名した。

【事例2】

メアリーとリチャードは結婚して6年、ピーターという5歳の子供がいる。メアリーはパートタイムのウエートレス、リチャードは屋根職人である。この夫婦には、特にリチャードが大量に酒を飲んだ時に暴力を振るうという問題がある。リチャードは過去に何度もメアリーを殴ったことがあり、メアリーはあざができたり、一度は腕を折られたこともあった。リチャードがメアリーに向かって投げたフライパンが、狙いを外れてピーターに当たり、縫合が必要な傷を負わせたこともある。またリチャードは、ピーターのお尻をあざができるほどたたく。最近リチャードが暴力を振るった時には、メアリーが警察を呼んだ。警察はリチャードを逮捕し、リチャードは拘置されたが保釈金を払って釈放された。メアリーは弁護士の助けを借りて、リチャードがメアリーまたはピーターに接近することを禁止する一時保護命令を発行してもらった。リチャードは保護命令に違反すれば再び逮捕される。現在メアリーは、離婚とピーターの親権獲得を求めている。一方リチャードもピーターの親権を要求している。

メアリーとリチャードの事例については、最近起きた家庭内暴力が関与しており、メアリーがリチャードと同じ部屋にいることを恐れているため、裁判所がメアリーとリチャードに調停プロセスを義務付けることはない。しかし裁判所は、政府に雇用されている社会福祉指導員が双方の当事者の評価を行うことを命令した。調査員は、リチャードがメアリーとピーターを何度か虐待したことを確認した。調査には、ピーターの身体検査と、精神衛生の専門家によるメアリーとリチャードの問診も含まれていた。調査員は、ピーターの親権者としてメアリーは適切であるがリチャードは適切ではないとの結論に達した。メアリーが長期にわたってピーターを危険な状況に置いたことについて多少懸念されたが、メアリーは概して良い親であると見なされ、最終的に警察を呼び、保護命令を発行してもらうという適切な措置を取ったことが評価された。

調査員と精神衛生の専門家である評価担当者は、リチャードにはアルコールの乱用と怒りの制御について重大な問題がある、との結論に達した。調査員と評価担当者は、リチャードがアルコール摂取と怒りをコントロールするための治療プログラムを受けることに同意すれば、毎週数時間、社会福祉機関の施設で、監視の下でピーターと面会できるようにすることを勧告し、裁判官もこれを支持した。監視下の面会制度では、社会福祉指導員が、リチャードとピーターと同席し、2人の交流を観察する。指導員は、面会がピーターの害になっていると見なした場合には、面会を中止することができる。また社会福祉指導員とリチャードの治療担当者は、リチャードが監視なしで面会できるほど回復した場合には、その旨を裁判所に報告することができる。

国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約について

1980年に、多くの国々の代表がオランダのハーグで会合し、「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」をつくり上げた。以来、この条約は89カ国で承認されている。米国はこの条約を批准した。しかし日本は批准していない。事実、先進7カ国(G7)でこの条約を批准していないのは日本だけである。

この条約は、ほかの批准国に不法に連れ去られたり留め置かれたりしている子供を直ちに返還することについて規定している。この条約が適用されるためには、子供を連れ去ったり留め置いたりすることが、その子供が「常居者」である国の法律に照らして、親の持つ親権を侵害していなければならない。子供の「常居所」のある国(常居国)に関する正確な定義はないが、子供(および通常はその子供の親または両親)がそこに住み続けるための「定住目的」のある国、と説明されている。その国に住み続ける期間は制限がある場合も、ない場合もある。1人の人間を考えた場合、特定の時点における常居国はひとつに限られるが、例えば「定住目的」が変わるなど、状況によって常居国が変わる可能性もある。

ひとつの例として、オーストラリア出身の父親とデンマーク出身の母親に3歳の子供がいると仮定する(オーストラリアもデンマークも上記のハーグ条約を批准している)。この夫婦は過去5年間オーストラリアに居住している。この妻が夫と別れ、夫の許可なく子供を連れてデンマークに戻った場合、夫はハーグ条約の下で、デンマークに対して、子供をその常居国であるオーストラリアに返還するよう求める訴訟を起こすことができる。ハーグ条約の下では、返還要求に対する抗弁を示すことができなければ、デンマークは子供をオーストラリアに返還する義務がある。この条約の下での子供の返還に対する抗弁には以下のようなものがある。

  1. 返還を求めている者が、子供が連れ去られたり留め置かれたりした時点で、実際に親権を行使していなかった。(上記の例で言えば、妻が子供をデンマークに連れ去った時点で、夫婦と子供が共にオーストラリアに居住していたならば、夫は親権を行使していたことになり、この抗弁は適用することができない)
  2. 子供の返還を求めている者が、子供が連れ去られたり留め置かれたりしたことを黙認していた。(上記の例では、事実として、夫はこれを黙認していない)
  3. 子供を返還することにより、その子が身体的または精神的に危害を受けたり、あるいはその他の耐え難い状況に置かれたりする重大な危険が存在する。(上記の例では、事実として、子供をオーストラリアに返還することによる危害は明らかにされていない。返還に反対する者は、そうした事実を証明しなければならない。一方の親が、子供を常居国に返還することにより子供が虐待にさらされる可能性が高いことを証明できれば、子供を返還しなくてもよい)
  4. 子供本人が返還されることに反対しており、かつ本人の意見を考慮することが適切な年齢に成長している。(この要因は、3歳の子供には当てはまらない)
  5. 子供が連れ去られたり留め置かれたりした時点から1年以上返還の手続きが開始されず、かつ子供が新しい環境に落ち着いている。(上記の例では、子供が連れ去られた後すぐに父親が措置を取ったのであれば、この抗弁は適用されない)
  6. 子供を返還することが、人権と基本的自由の保護に関する原則に違反する。(上記の例では、この要因が適用される可能性は低い)

また、ハーグ条約が適用されるのは、16歳未満の子供に限られる。

上記の例の事実関係を見た場合、子供の返還要求に対する抗弁が適用される可能性は低く、この子供はオーストラリアに返還されるべきである。母親が親権を要求し、子供をデンマークへ連れていくことを望む場合、それは可能であるが、紛争はデンマークではなくオーストラリアにおいて解決されるべきである。

「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」の下で、子供の返還命令が出されることは、その子供の親権が、残された親に自動的に与えられることを意味するものではない。しかし、この命令は、子供が連れ去られるまで住んでいた常居国に返還されるべきであること、そして常居国の裁判所が子供の親権を決定すべきであることを意味する。


ジェフ・アトキンソン

シカゴのデポール大学法学部教授。家族法、医療法、倫理学などを教えているほか、イリノイ判事協議会で教授兼報告者を務め、判事の教育を担当。米国の家族法に関する著書4冊がある。米国イリノイ州ウィルメット市在住。メールアドレスは、JAtkin747@aol.com