ベンダー・コンサルティング・サービスの最高経営責任者(CEO)、ジョイス・ベンダーさんは1985年に、命にかかわる事故に遭い、自分がてんかんを患っていることを知りました。この経験から障害者の雇用支援に情熱を傾けるようになったベンダーさんは、1995年にペンシルベニア州ピッツバーグで、官民両部門での障害者の就職をあっせんするベンダー・コンサルティング社を創立しました。

「障害のある人たちが必要としているのは給料であって、同情ではありません」。4月18日に米国大使館が主催した講演会で、ベンダーさんは、あえて非営利組織ではなく営利企業を立ち上げたのは、自分が慈善活動をしているのではないことを人々にわかってもらうためだと説明しました。「障害のある人たちは同情されますが、同情はやめるべきです。障害者は他の人たちと対等であり、尊厳と敬意に値します。そして他の全ての人たちと同じ待遇を受けるべきです。同情は最もしてはいけないこと。障害者は能力が劣るという考えを企業に植えつけるからです」

ベンダーさんは次のような話もしました。「会社の創業時に決意したことがあります。障害者だからといって、清掃員、スーパーでの袋詰め、建物の裏側での在庫管理などあまりスキルを必要としない仕事ばかりする必要はありません。障害者は他の人たちと同じチャンスを与えられるべきです。車椅子を利用していても、コンピューター・プログラマーになれます。視覚障害があっても、今ではエンジニアになるためのソフトウエアがあります。聴覚障害があっても、映像による電話リレーサービスを使えば健常者同様にコミュニケーションを取ることができます」

「アメリカン・ビュー」のインタビューに答えるベンダーさん

ベンダーさんは「アメリカン・ビュー」とのインタビューで、障害者雇用を、企業が「病気」の人々に仕事を提供して彼らを支援する「医学モデル」ととらえるのではなく、ビジネスモデルと考える必要があると強調しました。「障害者を雇用する最大のメリットは、彼らが働きたいという意思を持っている点で、職場にとって大いにプラスになります。障害者を雇用すると、多様な考え、独創的な考え方、チームプレーヤーを得ることができます。アメリカ国内の私の顧客は、障害者の生産性の高さに驚いています」

ベンダーさんは、障害者を雇用する経済的利点を示す事例を2例挙げました。最初は、米国のある大手製薬・小売り販売企業の事例です。この会社の幹部が、同社の主要配送センターの1つで障害者の雇用比率を上げる決定を下した結果、会社と従業員の関係と社員研修が改善し、他の配送センターに比べ生産性が高まりました。「慈善活動ではなく、実際の業績向上につながりました」とベンダーさんは強調します。

ベンダーさんはまた、別の会社の例を挙げました。この会社は、障害者を多く雇用する企業は収益が向上するという調査結果に鑑み、全従業員の30%に相当する数の障害者を雇用する決定をしました。「世の中には障害のある子どもを持つ母親、父親、おば、おじ、兄弟、姉妹がたくさんいます。ある会社が障害者を雇用していることが知られるようになると、その会社の製品を買う人たちが増えることが多くの調査でわかっています」と説明しました。

名古屋のプログラムでは、障害者の権利を守る活動をする日本人の若者と交流しました

米国では1990年に「障害のある米国人法」(ADA) が成立し、雇用、教育、交通機関など国民生活のあらゆる場面で障害者差別が禁止されました。ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領は、法案に署名したときにこう述べました。「恥ずべき排除の壁を、ついに終わらせる時が来た」。ADA成立後、「障害者にとって世界は大きく変わった」とベンダーさんは説明します。それ以前には、障害者が仕事に応募してきた場合、雇用者は、会社が障害者用の設備を提供できないことを理由に不採用とすることができました。

ADAは障害者に対する差別を違法とし、障害者用設備の提供を雇用者に義務付けましたが、社会の意識などのバリアはアメリカにも、他の国にもまだ残っています。今回のインタビューでベンダーさんは、障害者の採用が実現可能な選択肢であることを雇用者に示すと同時に、障害のある若者にキャリア目標を追求する自信を持たせるメンタリングとインターンシップ・プログラムの重要性を強調しました。ベンダーさんが説明した「全米障害者メンタリングの日」は、障害のある高校生に企業で1日見習いをしてもらうアメリカのプログラムです。障害のある若者に仕事ができるという希望を持ってもらうだけでなく、彼らが必要な能力を備えていることを企業の採用担当者に示すためでもあります。「障害のある人たちに対する障壁を取り除くことにつながるので、企業には障害者を対象とするインターンシップの導入を勧めています。日本でインターンシップを実施する企業が増えれば、障害者は優秀な従業員になれる素晴らしい人間であることがわかるでしょう。将来の労働力を育成することにもなります」とベンダーさんは言います。

愛知障害フォーラムと在名古屋米国領事館が共済した障害者雇用に関する勉強会で講師を務めるベンダーさん

ベンダー・コンサルティング社は、障害のある若者のキャリア目標策定を支援し、労働市場への参加に向けた準備をするプログラムを企画しています。「誰であろうと、他人が皆さん自身の目標を低く設定することを許してはいけません。皆さんにはこれができない、あれができないなどと、誰にも言わせてはいけません。自分を信じ、自分には達成できると信じましょう。自分の能力が劣っていると考えてはなりません。劣っていないのだから。皆さんにはたまたま障害がある。それだけです」