エミリー・ルイーズ・ボーマン

インドネシアのプラウ・セクニト島、マダガスカル島のベジョバカ村、米国ノースカロライナ州のスターリング山。これらはみな、風光明媚なへき地です。そして、地域の電力を次世代エネルギー技術と期待される空気亜鉛電池に依存しています。

空気亜鉛電池は、アリゾナ州に拠点を置くテクノロジー企業ナントエナジー社の科学者が開発しました。この電池は、途切れない再生可能エネルギーの供給を実現し、送電網から隔絶された場所で暮らす多くの人たちに電力を提供しています。また日没後や、風力が弱まりエネルギーが途絶えた場合でも、炭素排出量ゼロのエネルギー源が確保できます。

国際金融公社のショーン・ピーターセンさんは、空気亜鉛電池は「手頃な価格の電力供給と、新興市場国における(二酸化炭素を排出する)炭化水素燃料の使用削減に大変革をもたらす可能性」があると言います。

空気亜鉛電池は、大気中の酸素分子を利用して電気エネルギーを化学エネルギーに転換し、再び元に戻すことで充電を可能にします。空気亜鉛電池を太陽光パネルなどの電源につなぐと、まずエネルギーを取り込み、その後の使用に備えて蓄えます。これは天候に左右される再生可能エネルギー装置ではできないことです。

ナントエナジー社のパトリック・スン・シオン会長と同社が開発した充電式空気亜鉛電池 (© Calvin B. Alagot/Los Angeles Times)

ナントエナジー社のパトリック・スン・シオン会長と同社が開発した充電式空気亜鉛電池 (© Calvin B. Alagot/Los Angeles Times)

安価な電力供給に向け、空気亜鉛電池の性能をさらに改善できる可能性があります。インドネシアで6年間実施された小規模発電網の研究では、この電池を使うと毎キロワットアワー100ドルで電力を連続供給できることが分かりました。経済学者によると、これはエネルギー供給網を全て脱炭素装置で運営するのが可能になる価格帯です。

「これは注目に値します。この技術により、希少で危険な物質である鉛、リチウム、コバルトが不要になるからです」。ナントエナジーのチャック・エンセンCEOは、現在主流のリチウムイオン電池や鉛蓄電池の主要構成物質を挙げてこう説明します。

これに対し亜鉛は比較的豊富な資源であり、陰極に空気を使うことにより生産・維持費の削減につながります。世界には国の電力送電網への接続にさらに10年を要する村が数多くあります。しかしこのテクノロジーを生かしたナントエナジー社の小規模発電網は、そういった村への電力供給を可能にする現実的な選択肢となります。

この6年間で、12万個の空気亜鉛電池が、アフリカ、アジア、アメリカ大陸の8カ国に配置され、100以上の村と1000以上の通信塔に電力を供給しています。ナントエナジー社は、マダガスカル、インドネシア、米国以外に、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、メキシコ、コスタリカで事業を展開しています。空気亜鉛電池を利用した再生可能エネルギー発電で、二酸化炭素排出量がおそよ5万トン削減されました。

ナントエナジー社のパトリック・スン・シオン会長はこう言います。「生物学、化学、空気、太陽光を利用して、わが社は将来のエネルギー源開発を目指しています」