レノア・アドキンス

世界のどこかで災害が発生すると、ワールド・セントラル・キッチン(WCK)に所属するスタッフやボランティアが駆けつけ、その場で調理をし、被害を受けた人々に出来立ての食事を提供します。

シェフで慈善家のホセ・アンドレス氏は、2010年に壊滅的な地震がハイチを襲ったことがきっかけでWCKを設立しました。この地震では30万人の死者と数十万の避難者が発生し、国のインフラは深刻な被害を受けました。

WCK初の大規模な活動は、食を通して災害の被害者を支援することでした。

それ以降、WCKは2億5000万食以上の食事を提供してきました。2022年だけでも、WCKは世界中からの寄付によって4億5000万ドル以上の資金を調達しています。「私たちはより良い未来を創造するために食の力を活用します」と、アンドレス氏はツイッターで述べました。「戦いでお腹を空かせた人々がいるなら、私たちはそこに赴きます」

ワシントンに拠点を置くこの非営利団体は、地元のパートナーから提供されたフードトラック、緊急用キッチン、地域のレストランなどのリソースを活用してコミュニティーキッチンを設置しています。

キーウ近郊のブチャで住民へ食料を提供するホセ・アンドレス氏 (Courtesy of World Central Kitchen/WCK.org)

キーウ近郊のブチャで住民へ食料を提供するホセ・アンドレス氏 (Courtesy of World Central Kitchen/WCK.org)

重圧の中で調理をする

WCKは、自然災害の被災者に食事を提供することを中心に活動しています。WCKは気候データを使用して自然災害が発生する可能性が最も高い場所を予測し、世界中のパートナーと連絡を取り合っています。また、紛争時にも活動します。ウラジーミル・プーチンが2月24日に一方的なウクライナ侵攻を開始した後、WCKはウクライナ他7カ国(ポーランド、モルドバ、スロバキア、ルーマニア、ハンガリー、ドイツ、スペイン)で活動する団体「シェフズ・フォー・ウクライナ(Chefs For Ukraine)」を設立するために行動を起こしました。

これまでにシェフズ・フォー・ウクライナは、その場で食べられる温かい食事や、持ち帰り可能なフードキットを含めて1億7600万食以上の食事を提供してきました。団体の活動は、人の流れやニーズによって変化します。

4月と6月の2回にわたるロシアのミサイル攻撃によってウクライナのWCK関連施設が破壊されたにもかかわらず、その活動は続いています。1発のミサイルは仮設キッチンを直撃し、スタッフ4人が負傷しました。もう1発は食料が積まれた団体所有の車両を直撃しました。

「紛争地帯での活動には極度の困難が伴い、その状況は絶えず変化します」と、WCKの暫定共同代表兼最高執行責任者であるエリック・ブロクサス氏は述べています。「ウクライナに冬が到来し、努力を続けるウクライナ人を支援する必要性が高まっています。戦争の終結を見ることができるように願っています」

キーウで出来立ての食事を配布するWCKメンバー (Courtesy of World Central Kitchen/WCK.org)

キーウで出来立ての食事を配布するWCKメンバー (Courtesy of World Central Kitchen/WCK.org)

世界中で活動

WCKは今年、メキシコやブラジルなど世界中に調理スタッフを派遣しました。

ブラジルでは2月と3月にペトロポリスで、5月にはペルナンブコで大雨と鉄砲水が発生し、300人以上が死亡、数千人が自宅から避難しました。WCKはペルナンブコで3万6000食の食事を提供し、2000個のフードキットを配布しました。ペトロポリスでは、緊急救援隊や避難した家族、支援が行きわたっていない近隣地域の人々に食事を提供しました。

メキシコでは5月にハリケーン・アガサがオアハカ市を襲った後、WCKの主力救援チームが市民を支援しました。この災害では11人が死亡し、20万人が停電に見舞われました。WCKは4万1000キロの食料と3万6000食の温かい食事、サンドイッチや果物を配布して、43のコミュニティーを支援しました。

WCKの調理スタッフは、家庭の味を再現する調理法を地域住民から学びます。ハイチやバハマで支援活動を行った時は、白米を添えた野菜シチューであるレギュムをスタッフが調理しました。また、ウクライナでは赤ビーツで作ったスープであるボルシチなどの食事を提供しています。

「私たちの料理基準が保証するのは、緊急事態発生後に食を通じて励ます人々に対して、安全で栄養があり文化的にふさわしい食事を、尊厳を持って提供することです」と、ブロクサス氏は述べています。

バナーイメージ:キーウのレストランで個別の食事パックを用意するWCKメンバー (Courtesy of World Central Kitchen/WCK.org)