レノア・アドキンス

音楽は長きにわたり、訓練や部隊移動などの軍隊生活に欠かせないものであり、戦いが始まると、ドラム、笛、ラッパ、バイオリン、バンジョーの音、そして人の掛け声が部隊に鳴り響いてきました。

兵士たちが一糸乱れぬ形で行進するためのリズムは「ミリタリーケイデンス」と呼ばれ、アメリカ軍ではお馴染みの光景です。

ミリタリーケイデンスとは、行進やランニング訓練で鬼軍曹が歌で声掛けし、それに対して兵士たちが応答するもので、多くの人が映画で目にしているでしょう。軍隊生活の文化的価値観を表現する歌もあれば、軽い冗談のものもあります。例えば、聞き覚えのあるケイデンスと言えば、「色の褪せたジーンズは取り上げられて、今では軍服さ(Took away my faded jeans/now I’m wearing Army greens)」などがあります。

ニューヨーク州フォートハミルトン陸軍基地。訓練中に歌を使って呼びかけをする軍曹。2009年 (© Chris Hondros/Getty Images)

ニューヨーク州フォートハミルトン陸軍基地。訓練中に歌を使って呼びかけをする軍曹。2009年 (© Chris Hondros/Getty Images)

元アメリカ陸軍隊員で、現在はアメリカ空軍国立博物館で学芸員として働くウィリアム・マクラフリンは、ミリタリーケイデンスについて、「文化的視点から言えば、最もユニークな軍慣習の一つで、軍隊生活がどんなものか手っ取り早く教えてくれるもの」と言います。

ミリタリーケイデンスには、アフリカ系音楽とヨーロッパ系のアメリカ戦争歌の要素が入っています。

マサチューセッツ大学アマースト校で軍隊音楽を研究するトラヴィス・G・サリーは、ミリタリーケイデンスは歴史的にみると、奴隷として連れてこられたアフリカ系アメリカ人と囚人たちの歌とつながりがあり、また過酷で肉体的にきつい生活を反映した音楽であると指摘します。

独立戦争期、兵士たちは、笛やドラムの音に合わせて行進していました。この伝統は、15世紀のスイスで始まりました。1850年代になると、部隊長は兵士たちに正確な行進命令を教えるため、兵士たちの左靴に干し草、右靴にわらを巻かせ、「干し草の足、わらの足」と声をかけ、行進させました。

現在、ミリタリーケイデンスの選曲は、部隊長が行うのが通例となっています。このことから、ケイデンスは、隊長の個性や部隊の目標を反映するものになっています。マクラフリンによると、陸軍と海兵隊の歩兵隊では、「ヘイル・オ・ヘイル・オ・インファントリー (Hail O’ Hail O’ Infantry)」が使われることが多いようです。

ミリタリーケイデンスは、部隊を整列させるためだけのリズムではありません。呼吸を合わせることで、健康増進にも役立ちます。歌うことや唱和することは、士気を高め、厳しい訓練の苦しみを軽減してくれます。

陸軍第40歩兵師団のロック音楽隊と歌うロドリゴ・ビジャゴメス2等軍曹。カリフォルニア州ロスアラミトス (U.S. Air National Guard/Staff Sergeant Crystal Housman)

陸軍第40歩兵師団のロック音楽隊と歌うロドリゴ・ビジャゴメス2等軍曹。カリフォルニア州ロスアラミトス (U.S. Air National Guard/Staff Sergeant Crystal Housman)

米海軍歴史・遺産コマンドによると、昔の水平たちは、シーシャンティと呼ばれる作業歌を歌いながら、ロープを投げ入れ、いかりを巻き上げていました。全員がリズムに合わせて押したり引いたりし、一丸となって作業にあたりました。

作業では、1人のシャンティ係が水平たちの先頭に立ち、メイン部分を歌い、残りがそれに答える形で歌いながら作業をしました。最後は”come home”という言葉で締めくくられ、文字通り最後に全員が一斉にロープを引っ張り、無事に家に帰ることができたのです。

海軍出身で、現在はアメリカ議会図書館で音楽の研究をしているロラス・シッセルは、「昔の海軍は、ほとんどが肉体労働で、チームワークを要したものだった。そのため、作業をしながら歌うことで、仕事を時間内に終えることができた」と言います。

戦場で兵士たちが歌う例は数多くあります。有名な話に、第1次世界大戦中のクリスマス休戦があります。西部前線に配備された両陣営の兵士たちは、武器を置き、クリスマス・キャロルを歌い始めたことから、戦争が休戦になりました。歌声を聞いた敵味方の兵士たちは塹壕から出て、食事やゲームを共にし、仲間意識を共有しました。

元海兵隊員で、現在はアメリカ議会図書館で音楽関係のアーキビストを務めるジェーン・クロスは、塹壕から歌うことは第2次世界大戦を機になくなり、代わりにアメリカのビッグバンドがスイングを演奏するようになったと説明し、「歌よりダンスが主流になった」と言います。

現在、アメリカ5軍(空軍、陸軍、沿岸警備隊、海兵隊、海軍)には130の音楽隊があり、6500人が所属しています。世界各地で演奏し、部隊のみならず、民間人も勇気づけています。(中でも海兵隊バンドは、最も歴史が古く、1798年に連邦議会によって創設されたもので、現在も演奏を続ける由緒ある軍楽隊。)

今でも軍の中では、退屈しのぎや娯楽として歌を歌うことがあり、ポップスやフォークソングがよく歌われています。下の動画では、州兵が休憩中に「ウェイファーリング・ストレンジャー(邦訳:彷徨える人)」をアカペラで歌っています。

バナーイメージ:ギターを携えてハワイ行きの飛行機に乗るため並ぶ兵士。1969年 (© AP Images)

*この記事は、ShareAmericaに掲載された英文を翻訳したものです。