ワシントン州オーバーンのモズビー・ファームのすばらしい景色

ワシントン州オーバーンのモズビー・ファームのすばらしい景色

今日の米国の農業は、農家と消費者に数え切れないほどの選択肢を提供している。「多くの道があり、単にどの方向に進みたいかの問題である。さまざまな選択肢があることは確かだ」。ワシントン州オーバーンのグリーンリバー・バレーで「モズビー・ファーム」を共同経営するロゼラ・モズビーはこのように言う。モズビーが担当するのは農場での農作物等の販売、地域支援型農業 (CSA) の運営、地域社会での活動、教育プログラム、ソーシャルメディア、マーケティングである。農業の将来への投資が、今後何世代にもわたり農業に従事する人々を確保するために欠かせないとモズビーは考えている。

モズビー・ファームの共同経営者ロゼラ・モズビーが、日本のスーパーで売られている野菜をチェック

モズビー・ファームの共同経営者ロゼラ・モズビーが、日本のスーパーで売られている野菜をチェック

モズビーは今年3月、国務省が主催した農業分野での起業に関するスピーカー・プログラムで来日し、日本各地を訪れた。「アメリカン・ビュー」とのインタビューの中でモズビーは、アメリカにおける農業の新たなトレンドについて次のように語った。「農業は2つの方向に進んでいると思う。1つの方向として、CSAに従事する小規模の有機栽培農家が増えている。CSAとは一種の予約購入制度で、消費者が一定の金額の料金を農家に前払いし、農家はその資金を使って種子の購入や設備の補修を行う。収穫時期になると購入者は毎週、新鮮な野菜を受け取ることができる。もう1つはGPSと大型トラクターを使用する大規模農業で、単位面積当たりの効率はより優れている」

CSAプログラムで消費者に提供される新鮮な野菜や果物

CSAプログラムで消費者に提供される新鮮な野菜や果物

CSAは1980年代半ばにヨーロッパからアメリカに導入されて以来、盛んに行われるようになった。CSAを通じて、地域の人たちは農作物の生育期に地元の農場の恵みを享受し、食物生産に直接参加して喜びを得ることができる。また生産者と消費者が天候不良や害虫などが原因で起きる不作など、農業に伴うリスクをある程度分かち合うことも可能になる。多くのCSA農家は、新鮮で健康によく、品質の高い農作物に対する需要に応えるため、有機農法やバイオダイナミック農法を取り入れている。バイオダイナミック農法とは、ドイツのルドルフ・シュタイナーが提唱した農法で、有機栽培の一種である。種まきや収穫などの農作業のタイミングを計るために天体の運行に基づく「農業暦」を用い、牛の角や水晶粉などを調合して畑の土に混ぜて使う。

モズビーによると、アメリカでオーガニック食品の市場が成長しているのは、国民の健康意識の高まりによるものだ。「若い人は自分が口にする食べ物がどこで作られ、どのように育てられたか知りたがり、化学物質が多く添加されていると思われる食品を摂取したがらない。有機栽培された、素朴で添加物を含まない自然食材を家庭で調理するという食習慣に回帰しているように思う」とモズビーは言う。

農業体験ツアーもアメリカの農業の新しいマーケティング・トレンドの1つだ。多くの農場経営者は、日帰りあるいは一泊で観光客を農場に招き、新たな収入を得ている。参加者は牛の乳搾りや新鮮なイチゴの収穫を体験し、ときには納屋で結婚披露宴を行うこともある。「農業体験ツアーは人々を都市から連れ出し、農業と接する機会を与える役割を果たしている。週末に農場に来て農作業し、牛に餌を与え、草取りをする。人々にそうしたライフスタイルを経験してもらい、より多くの人に田舎のコミュニティーや農業について興味を持ってもらう」とモズビーは語る。

他にもモズビー・ファームは、若者に農業に興味を持ってもらう方法を見つけた。文字通り農場で働いてもらうのである。「夏の10週間、朝7時から正午まで若者のグループに農場で働いてもらうことにした。これは農業の将来にとって貴重な1コマだと考えている。夏が終わるまでに、彼らは農業の素晴らしさをあらためて実感するはずだ」とモズビーは言う。このプログラムは若者に一生懸命働き農作物の成長を見る喜びを味わってもらえるだけでなく、収穫期の人手不足の軽減にもつながる。「我々の農場は350エーカー(約142ヘクタール)あるが、草刈りと収穫は全て手作業で行われるので、かなりの人手が必要になる」とモズビーは言う。

「ヤング・クルー」プログラム

夏の間、農業について学び、人手不足の解消に一役買う「ヤング・クルー」プログラムに参加する子どもたち

今日、農場で働くことは、必ずしもトラクターの運転や畑での作物の収穫を意味しない。モズビーによると、農業には幅広いキャリアの選択肢がある。現在多くの農場が、農作業をする人や設備の整備を担当する従業員のほか、食の安全の担当者、ウェブデザイナー、マーケティング担当者、地域への働きかけの担当者、教育担当者を雇っている。農業でキャリアを追求するメリットについて聞かれたモズビーは次のように答えた。「大変な仕事だが、農業から得る恩恵とライフスタイルを他の何かと交換したいとは思わない。満足感を得られる仕事だし、なにより人のためになっている」

10543610_10154389387520646_8005521614688572168_n