ローレン・モンセン

視覚障害がある人にとって、日常生活は大きな苦労を伴います。たとえ白杖や盲導犬の助けがあっても、人通りの多い道を歩くのは大変ですし、日用品の買い物も簡単ではありません。このような人たちの救世主になろうとしているのが、2014年に創業したサンディエゴを拠点とする企業「アイラ (Aira)」です。

アイラは、ビデオカメラと人工知能 (AI) を搭載した「スマート」メガネに、スタッフによる支援を組み合わせ、目が不自由な人に現在地周辺の情報をリアルタイムで伝えます。アイラの名前は、AIと古代エジプトの神「ラーの目 (Eye of Ra)」のRaに由来しています。

アイラの共同創業者でCEOを務めるスーマン・カヌガンテさんは、会社の使命について、「いつでもどこでも利用者が必要とする情報を瞬時に届けること」と語ります。

サービスの利用者をサポートするのは、「エージェント」と呼ばれる高度な訓練を受けたアイラの支援専門スタッフです。視覚障害者が無事目的地に着くのをサポートするだけでなく、インターネットなどから得た情報を利用者に伝えます。

カヌガンテCEOは、全米視覚障害者連合の2017年大会で、「アイラは、白杖や盲導犬の代わりを目指しているのではありません。従来の支援ツールでは簡単にアクセスできなかった情報を提供することで、目が不自由な人の世界を豊かにしたいのです」述べています。

アイラに加入して最初に受け取るのは、ビデオカメラが搭載されたメガネと、メガネをスマートフォンにリンクさせる設定方法です。加入者は設定完了後、メガネにあるボタンをタップすると、遠隔地にいるエージェントと通話ができます。このサービスは24時間いつでも利用できます。

エージェントは、GPSや地図、インターネットから集めた情報と一緒に、アイラ加入者のメガネから送られてくるライブ映像を使って、さまざまなサポートを提供します。例えば、空港や大学のキャンパスでの道案内、メニューやメールの読み上げ、混雑した場所での顔の識別、公共交通機関の利用、車の手配などです。スマートメガネを介したマラソン伴走のサポートも行います。

サービスプランは4つあり、値段もそれぞれ異なります。利用者は、エージェントの支援が必要ない場合、「クロイ」と呼ばれるiPhoneの「シリ」に似たバーチャル音声アシスタント機能を呼び出すことができます。

このアイラのサービスを視覚障害者に無料で提供しているのが、スーパーマーケットのウェグマンズです。ウェグマンズの店舗では、サービスに加入していない人も、自分のスマートフォンのカメラを棚にかざすだけで買い物のサポートが受けられます。

視覚障害者をサポートするその他のテクノロジー

文字を音声として読み上げる機械や話すコンピューターなどのテクノロジーは長年にわたり、視覚障害者の自立への道を切り開いてきました。最近の技術革新の原動力となっているのが、スマートフォンやインターネットです。

センシブル・イノベーションズの音声アプリ「アウェア」は、視覚障害者に通り過ぎようとする場所の名前を教えてくれます。創業者で開発者のラシャ・セイドさんは、このアプリには「モア・インフォ」機能が搭載されており、利用者が希望すれば、さらに詳しい情報を得ることができると説明します。

視覚障害者が日食を体験できるアプリもあります。物理学者ヘンリー(トレイ)・ウインター博士が率いるハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究チームは、米国航空宇宙局 (NASA) と協力し、日食観測アプリ「エクリプス・サウンドスケープス」を開発しました。このアプリは、日食の最中および日食後の様子を音声で伝えます。また「ランブル・マップ」と呼ばれる振動を出す地図を使えば、日食の異なるフェーズの現象を、耳で聞いたり感じることができます。

米国疾病予防管理センター (CDC) の最近1年の統計によると、目が見えない人は全米で100万人、何らかの視覚障害を持つ人は320万人と推定されています。一方、世界保健機関 (WHO) は、中度から重度の視覚障害者は世界中に2億5300万人おり、そのうち目の見えない人は3600万人と発表しています。

視覚障害などの障害により、多くの人が雇用の機会を奪われています。政府の推計では、全米の障害者就労割合は、2017年時点で全障害者数のわずか19%でした。さらなるテクノロジーの進歩により、障害者の埋もれた才能を引き出すための環境整備が期待されています。