2015年6月、キャロライン・ケネディ駐日アメリカ大使は、京都府京丹後市を訪問した。京丹後市は、琴引浜の「鳴き砂」で有名な日本海に面した都市だ。鳴き砂は歩くと「クックッ」という音を立てる砂で、主成分は石英。きれいな水や空気で砂が磨かれて、汚れのない状態にあるときに力が加わると「鳴く」そうだ。

鳴き砂はアメリカにもあり、ケネディ大使も子どものころ、鳴き砂の浜辺を訪れたことがあった。京丹後市を訪れて故郷の鳴き砂を思い出した大使は、「マサチューセッツ州にも鳴き砂がありますから、その地域と交流してはいかがですか」と提案した。

これをきっかけに、2015年12月、マサチューセッツ州マンチェスター・バイ・ザ・シーのマンチェスター・メモリアル小学校から、同校の児童が描いた絵、文房具、子どもたちの写真などの贈り物が、京丹後市立島津小学校に届いた。この思いがけない贈り物に島津小学校の児童たちは大喜びした。同校の吉岡龍哉校長によると、児童たちは贈られた絵やアメリカの子どもたちの写真に興味を示し、遠い国を身近に感じていたそうだ。絵や写真など目で見てわかる物を贈ってもらったので、子どもたちはたとえ英語がわからなくても、感覚的に楽しむことができた。お返しに島津小学校からメモリアル小学校に、メッセージや琴引浜の貝を使った万華鏡などが贈られた。

マンチェスター・バイ・ザ・シーのシンギング・ビーチを訪れた京丹後市の一行とボストン日本協会のシニアアドバイザーのピーター・グリーリ氏(中央)

マンチェスター・バイ・ザ・シーのシンギング・ビーチを訪れた京丹後市の一行とボストン日本協会のシニアアドバイザーのピーター・グリーリ氏(中央)

ここから京丹後市とマンチェスターの交流が始まった。京丹後市は条例で国際交流の推進をうたっており、国際的な視野を持つ人材の育成を目指している。マンチェスターとの交流はこの目的にかなう。交流する都市の行政や教育制度について理解を深めるため、2016年7月に京丹後市の視察団がマンチェスターを訪れた。同市の教育・総務部門の職員ら一行は、現地で教育・行政関係者、砂浜の環境保全に取り組む人々、歴史博物館の職員ら多方面の人々に面会した。

ビーチでボストン日本協会のグリーリ氏(中央)と話す京丹後市の木村嘉充氏(右)と宗原めぐみ氏(左)

ビーチでボストン日本協会のグリーリ氏(中央)と話す京丹後市の木村嘉充氏(右)と宗原めぐみ氏(左)

視察の参加者たちは、マンチェスターの人々の熱烈な歓迎と京丹後市との交流への高い関心に感激した。メモリアル小学校の玄関には「ようこそ」の文字があり、島津小学校からの贈り物が“Our Sister School”という言葉と共に展示されていた。同校が島津小学校との交流を大切にしていることの表れだった。鳴き砂があるシンギング・ビーチについては、琴引浜の砂の色によく似ており、周辺の岩石も酷似していた。参加者は、実際にマンチェスターの人々と会い、施設を視察することによって、人々の人柄や文化的な雰囲気に直接触れることができ、今後交流を進めていく上でプラスになるという印象を持った。

シンギング・ビーチ・クラブの昼食会に出席した皆さん

シンギング・ビーチ・クラブの昼食会に出席した皆さん

今後の交流について京丹後市の担当者は、まずスカイプなどの技術を活用して小学生同士の交流を深め、姉妹校提携を通じて交流を継続・拡大したいと考えている。そして次の段階として、マンチェスターと京丹後という自治体同士が、鳴き砂という共有する自然現象と環境保全の視点から交流を深め、将来的には姉妹都市提携も検討していきたいとしている。島津小学校の吉岡校長も、メモリアル小学校とは姉妹校として息の長い交流をし、異文化の人々と積極的にコミュニケーションを取ることができる子どもたちを育成したいと考えている。

ケネディ大使はこう述べている。子どものころ歩いたシンギング・ビーチと同じ音がする琴引浜を歩いたとき、「私たちには相違点よりも多くの共通点があることを思い出しました。海は両岸に住む人々を隔てるのではなく、つないでいるのです」。鳴き砂が結んだ2つの町の交流が今後も発展していくことを願う。