L・サンディー・メイゼル

米国民にとって、連邦議会議員の選出は、大統領を選ぶことと同じくらい重要である。本 稿では、米国連邦議会の構成、連邦議員選挙を左右するさまざまな要素、2008年の選挙が米国政府の方針に及ぼす可能性がある影響についても取り上げる。 著者のL・サンディー・メイゼルは、メーン州ウォータービルのコルビー大学の政治学教授である。

2008年11月4日、全米の有権者は投票所に向かうが、この日、彼らが選ぶのは大統領だけではない。435議席の下院議員の全員と、上院議員の3分の1も選ぶことになる。大統領選挙に注目が集まるが、連邦議員選挙も同じように重要である。

アメリカ合衆国憲法に定められた統治制度の下では、行政府と立法府の両方に意思決定権がある。大統領の所属政党と連邦議会で過半数を占める政党が 常に同じである場合や、党員たちが指導者に従うよう統制されている場合には、権力の分立は重要ではないだろう。しかし、現実はそのいずれとも異なる。選挙 で選ばれるこの連邦政府の2つの部門には異なる人々が在籍している、つまり、米国の上院議員あるいは下院議員は同時に行政府で働くことはできない、という 意味だけではなく、公職に就く者たちはそれぞれ別の選挙で選ばれる(選挙日は同じだが)という意味においても、統治権は分立している。国民には、大統領を ひとつの政党から選び、上院議員を別の政党から選び、さらに下院議員をいずれかの政党から、あるいは第3の政党から選ぶという選択肢もある。ひとつの政党 がホワイトハウスを支配し、もう一方の政党が上下両院のひとつ、あるいは両院で多数党になることは、それが可能であるというだけでなく、よく起こることで もある。このような状態を「分割政府」と呼ぶ。さらに、下院議員・上院議員は、再選の成否を党の指導部に握られているわけではないので、投票においても独 自性を発揮することが珍しくなく、党の方針に反してでも、それぞれの選挙区民の利益を考えて行動する。

連邦議会の構成

連邦議会は下院と上院という2つの機関から成る。下院は、国民に最も近い存在となるよう意図された機関である。議員は比較的小さな選挙区から公選 で選ばれ、選挙は頻繁に行われる(2年に1回)。今日、全米で最も人口の多いカリフォルニア州は、下院に53の議席を持っている。逆に、人口数で下位にあ る7州は、それぞれ1議席である。

上院は、州の利益を反映するためにつくられた。各州の上院議員の議席は、人口にかかわらず2人である。上院議員の任期は6年だが、任期をずらして あり、議席の3分の1ずつ2年に1回改選される。上院議員は、もともと各州議会が選んでいたが、1913年からは公選になった。連邦議会の創始者たちは、 上院議員は間接選挙によって選ばれ、任期も長いので、国民の感情から距離を置くことができるだろう、と考えたのである。しかし、今日もその考えが当てはま るかどうかについては、疑問を感じる者が多い。

上院と下院は対等な権限を持っているが、一般に上院の方が下院より権威があると考えられている。上院は下院に比べて選挙区が大きく(例外として、 人口の少ない下位7州では、選挙区は上院も下院も同じである)、任期が長く、しかも議席数が少ないので国民の注目度が高くなる。

しかしながら、上院選挙と下院選挙は州によって小さな違いはあるものの、ほぼ同じ規則に従って実施される。民主党と共和党のほか、州内で活動して いる政党は、予備選挙を通じて候補者を指名する。無所属の候補者は、必要な署名を集めれば投票用紙に名前を掲載できる。11月の一般選挙では、最高得票数 を得た候補者が当選する。過半数の得票は必要とされない。

教育に関心を持つワシントン州シアトル在住のキャシー・ロゼス。この問題で議会の決議を求めるために請願書を集めている(© AP Images/Elaine Thompson)

教育に関心を持つワシントン州シアトル在住のキャシー・ロゼス。この問題で議会の決議を求めるために請願書を集めている(© AP Images/Elaine Thompson)

連邦議員選挙の要因

連邦議員選挙を決定付ける基本的な要因は3つある。それは、選挙区の党派性、現職議員の出馬・不出馬、そして、その時々の争点である。米国の政治 制度は、2大政党が互いに競い合う制度と説明されてきた。19世紀半ば以降、民主党と共和党が米国の政治を支配してきた。近年は、連邦議会に選出された議 員の99%以上が民主党あるいは共和党のいずれかに属する。小選挙区制と相対多数制を持つ仕組みが、2大政党制の確立に有利に働いている。第3政党や無所 属の候補者は、比例代表制であれば恩恵を受けることもあるだろうが、この制度では小差で敗れても何の得にもならない。

この数十年、連邦議会の支配をめぐる争いが激しく繰り広げられてきた。それは、大統領職をめぐる争いに匹敵する。しかし、どの選挙区でも、どの州 でも激戦が繰り広げられているわけではない。一部の選挙区、それどころか一部の州では、どちらか一方の党が圧倒的に優位なのである。例えば、マサチュー セッツ州では通常、民主党が勝つ。ワイオミング州では共和党だ。番狂わせが起きたこともあるが、選挙区や州有権者の標準的な党派性を知らずに2008年の 連邦議員選挙に臨む政治家はいない。

選挙結果は、現職議員の出馬・不出馬で説明がつくとも言える。過去30年以上にもわたり、再選を目指して出馬した現職下院議員の95%以上が当選 を果たしている。現職の上院議員も、同様に再選を果たしている。多くの議席で党が入れ替わった選挙でさえ、そうした逆転が起こるのは、多くの場合、現職が 出馬しなかった選挙区である。下院・上院選挙への出馬を目指す者が党の指名を求めて競い合う様子を見れば、こうした要因が影響を及ぼしていることが見て取 れる。激戦が予想される議席、例えば、民主党と共和党が拮抗(きっこう)している選挙区で現職が出馬しない場合、いずれの党の予備選挙でも多くの候補者が 名乗りを上げる可能性が高い。他方、一方の党が圧倒的に優位に立つ選挙区で現職が出馬しない場合には、優位に立つ党の予備選挙は激戦になる可能性が高い が、もう一方の党の予備選挙は競争が全くない、あるいはほとんどない。最後に、現職が出馬する場合には、現職が手ごわい対抗馬と向き合う可能性は少なく、 もう一方の党の指導部は、党内からの立候補者探しに苦労するかもしれない。以上述べてきた一般論は、上院よりも、下院に当てはまる。これは、上院の議席の 方が、価値があると見なされており、事前の予想が容易につく選挙が少ないからである。

新しい大統領が2008年に選出される。そして、選挙戦の主な争点となるのは、イラク戦争、テロ、移民政策、エネルギー依存などの国内問題だろ う。もし、ブッシュ大統領の支持率が低迷を続け、これらの問題が解決されずに11月の選挙に突入すると、激戦の選挙区では民主党が有利になる可能性があ る。

ペンシルベニア州フィラデルフィアでは、イラク戦争に従軍した退役軍人パトリック・マーフィーが、2006年中間選挙に出馬。有権者の支持を求めた(© AP Images/H. Rumph, Jr.)

ペンシルベニア州フィラデルフィアでは、イラク戦争に従軍した退役軍人パトリック・マーフィーが、2006年中間選挙に出馬。有権者の支持を求めた(© AP Images/H. Rumph, Jr.)

統治への影響

2006年の連邦議員選挙の結果、共和党がホワイトハウスと行政府を支配する一方で、連邦議会では、上院での差はわずかとはいえ民主党が両院を制して、ワシントンには分割政府が残された。

2008年の選挙で争われる上院の議席数は34で、このうち22議席は、今、共和党が占めている。民主党がわずかに議席数を伸ばしたとしても、上 院で圧倒的多数を確保することにはならない。上院の規定により、重要法案を発議するには60票が必要だが、民主党の議席がその数に近づく可能性はきわめて 低い。

下院では、民主党は共和党をおよそ30議席上回っている。多くの現職議員の予定は流動的だが、今会期終了後に政界を引退すると見られる下院議員が およそ25人いる。それらの議席の大半と、さらにほかの25議席をめぐり(その多くは2006年の選挙で、民主党が共和党から奪取したものだが)、 2008年の選挙で激しい争いが繰り広げられるだろう。選挙戦は、民主党にやや有利に展開しそうであり、現在の過半数の議席に多少積み増すことができるか もしれない。しかし、それでも、民主党が議会で自由に行動できるほどの議席数には届かないだろう。

次の連邦議員選挙の結果いかんでは、2008年に共和党から大統領が選出された場合、その大統領は、議会の両院で過半数を占める断固とした反対勢 力と向き合うことになるかもしれない。仮に民主党から大統領が選出された場合には、自分の所属政党が支配するが、共和党が主要政策発議を阻止するだけの力 を温存する連邦議会と協力して統治することになるだろう。

権力が分立され、抑制と均衡が有効に働き、立法府の選挙結果の大半が、その時々の国のすう勢ではなく、現職議員の力の程度によって決まる統治制度 は、国の政策を緩やかに変化させる。それこそまさに、アメリカ合衆国憲法の起草者たちが意図したことである。2008年の選挙では非常に重要な問題が主な 争点となるであろう。新しい大統領が、議会の同意を得ることなしに行動できる問題もあるが、その他の多くの問題については、米国政府の言葉はそうではない かもしれないが、その政策はわずかしか変化しないだろう。


*本稿で表明されている意見は、必ずしも米国政府の見解あるいは政策を反映するものではありません。

*本稿は、eJournal USA 2007年10月号に掲載の "Congressional Elections" の仮訳です。