早川達夫 アメリカ大使館 広報・文化交流部

アメリカ人とバーベキュー

アメリカを代表する食文化「バーベキュー」。テキサス、メンフィス、ノースカロライナ、サウスカロライナ、カンザスシティーなど、さまざまな地域で独自の手法が凝らされ、各地で最高のバーベキュー作りを競う大会が開かれます。肉の種類、スパイスの調合、薪の種類、火加減と調理時間にまで、地域や作る人それぞれにこだわりがあるのです。2015年にアメリカ大使館の招聘で来日したテキサス・バーベキューの「ピットマスター」ウェイン・ミューラーさんはこう言います。「初めて会うアメリカ人との会話でトラブルになりやすい話題。それは政治、宗教、バーベキューだ」

アメリカ大使館・領事館に勤務するする外交官にもバーベキュー好きはたくさんいます。そしてやはり十人十色のこだわりを持っています。ここでは「アメリカ人外交官とバーベキュー」という視点から、その背景にあるアメリカの文化や歴史について紹介していきたいと思います。

バレットさんとテキサス・バーベキュー「ブリスケ」

現在アメリカ大使館の農産物貿易事務所に勤務するテキサス州出身のバレット・バンパスさん。「子供の頃、裏庭にお父さんがトレーラーに乗った大きなスモーカー(バーベキューグリル)を作ったんだ」と、嬉しそうに語ります。テキサス・バーベキューと言えばビーフ。特に牛の肩バラ肉の塊を塩とコショウのシンプルなスパイスで10~15時間かけてスモークする「ブリスケ」がポピュラーです。ちなみに直火で肉等を焼く調理法を“Grilling”と言い、それよりも低い温度で長時間スモークする場合は“Barbecuing”と言います。両者はよく混同してバーベキューと表現されますが、似ているようで違った調理法です。

最近バレットさんが大使館宿舎で調理したブリスケ(写真提供:バレット・バンパス)

最近バレットさんが大使館宿舎で調理したブリスケ(写真提供:バレット・バンパス)

「カウボーイ」は「テキサス人」とほぼ同じ意味だと言っても過言ではありません。それは、「ひとつ星の州(テキサス州のニックネーム)」のシンボルであり、平原で牛を放牧していた時代にまでさかのぼることができます。牛肉生産では全米トップを誇るテキサス州。畜産は120億ドルを超える規模の産業に発展しています。冷蔵庫が広く普及する以前は、大量の肉をどのように保存するかが南部の牧場主の大きな課題でした。安価な部位を低温でスモークし、美味しく日持ちする肉にする技術は、時代を超えて引き継がれてきました。その伝統が「ブリスケ」を生み出したのです。

スモーカーを作ったばかりの頃、お父さんのバーベキューは肉が硬くて味も今一つだったそう。それでも高校生だったバレットさんは、一緒に火の番をしながら親子で何度も試行錯誤を重ねて、今では家族の集まりには欠かせない家庭の味を作り出しました。肉の大きさにもよりますが、最初の5~6時間は肉をスモークすることで、肉をカットした時の外側周辺にピンク色の「スモークリング」が出来ます。その後アルミホイルで包み、さらに低温調理することで肉の組織が分解し、また肉汁を閉じ込めることで硬い肩バラ肉も柔らかでジューシーな味わいになるのだそうです。

BBQ Capital of Texas

テキサスには”BBQ Capital of Texas”と呼ばれる街「ロックハート」があります。バレットさんは、「テキサス・バーベキューを味わいたかったら、ぜひロックハートに!」と勧めます。オースティンもバーベキューで知られています。バレットさんがインターネットを通じてバーベキューを教わったという「師匠」が、オースティンで大行列を作る事で有名な人気バーベキュー店のオーナーシェフです。テキサス・バーベキューは、大きな牛肉の塊(子豚のバラ肉も可)を現地の薪(通常はポストオーク)で何時間もモクモクとスモークします。そのため、郊外にポツンといきなり美味しいレストランがあったりするのです。アメリカの郊外を旅する際には、美味しいバーベキューレストランを探すというのも楽しいかもしれませんね。

バーベキューと家族・友人

「バーベキューをする時は、いつも生まれ育ったテキサスのこと、そして家族のことを思い出すんだよ」と、バレットさんは話します。バレットさんは今でも休みの日に、外交官宿舎にあるバーベキュースモーカーを使ってテキサス・バーベキューを作るそうです。テキサス・バーベキューのスパイスの王道はなんと言っても塩コショウで、肉の美味しさを最大限に引き出します。そこにバレットさんはパプリカやガーリックパウダーなどの独自のスパイスを調合。お父さんに教わったレシピを元に自分なりのアレンジを加えた手法でバーベキューを楽しんでいます。また、昨年末テキサスに帰った際には親戚や友人が集まり、お父さんとバーベキューを楽しみました。その時は7つのブリスケを調理して、2つはその日のディナー用に、2つは冷凍して保存用に、そして残りの3つはご近所でお世話になっている友人に日頃のお礼の気持ちにと「お裾分け」をしたのだそうです。バーベキューが、地域の繋がりを深める役割も果たしているのです。

テキサス・プライド

「お父さんが作ったスモーカーだよ」と、写真を見せてくれたバレットさん。さすが手作りとあって、市販ではなかなか見られないようなユニークなバーベキュー・グリルです。そのスモーカーの上に乗っている二つのTの文字。「これはTexas Tech University(テキサス工科大学)のTとTだよ」と教えてくれました。バレットさんのお家はバレットさん自身のみならず、お父さん、そして弟さんまでテキサス工科大学出身。バーベキューを通じて、テキサスに根付いた家族のテキサス・プライドを感じました。

バレットさんのお父さん自作のピット

バレットさんのお父さん自作のバーベキュースモーカー(写真提供:バレット・バンパス)

バレットさんのバーベキューのお話から、お父さんとの思い出、家族や友人との絆、そして出身地テキサスへの思い入れを感じることができました。バーベキューという食文化を考えることで、アメリカ人らしさが見えてくる気もしました。次回はアメリカ大使館政治部のマーガレット・シャンさんとご主人のトッドさんにお話を伺い、メンフィス・バーベキューを皆さんに紹介したいと思います。

バナーイメージ:バレット・バンパスさん。ご自慢のピットとともに(写真提供:バレット・バンパス)

Tatsuo Hayakawa早川達夫 アメリカ大使館 広報・文化交流部 ― 日米の文化交流事業を担当。2015年にアメリカン・バーベキューを紹介する企画を担当し、自身がアメリカン・バーベキューの奥深さにハマる。現在はアメリカ大使館のバーベキュー好きが集まる”Fleischfest”のメンバーの一員として、バーベキュー見習中。