テキサスA&M大学 ロボット支援探索救助センター所長のロビン・マーフィー教授が、米国大使館の招きで来日し、各地で行われた講演会でロボット開発の日米協力について語りました。レスキューロボットを専門とするマーフィー教授は、2011年の東日本大震災発生から約1カ月後、かねて協力関係にあった東北大学のチームと共に被災地に向かい、ロボットを使って行方不明者の捜索を支援しました。今回私は、マーフィー教授にインタビューし、ロボット工学分野での日米協力などについてお話を伺いました。
アメリカン・ビュー(以下“A”): ロボット工学を専門にしようと思ったきっかけは何ですか?
マーフィー教授(以下“M”):ロボット工学の分野に進んだのは、ささいな理由からです。大学院でコンピューターサイエンスを研究するにあたり奨学金を受けたのですが、特定の分野を研究する指導教授を選ばなければなりませんでした。一人は新任のロボット工学の教授で、もう一人は全く異なる分野を研究していた年配の気難しそうな教授でした。そこで、ロボット工学を選んだわけです。
実際に災害用ロボットの研究を始めたのは1995年のことです。この年は、日本で阪神・淡路大震災、米国でオクラホマ連邦ビル爆破事件が起きました。この2つの出来事と、当時盛んに行われていた小型ロボット研究とがあいまって、ロボットを災害対応に使えないかという考えが自然に生まれたように思います。ちなみに、この小型ロボット研究から無人火星探査車が生まれました。

がれきの上で地上ロボットの操作を練習するマーフィー教授
A:博士のチームは、東日本大震災および原発事故後の復興で重要な役割を果たされましたが、日本との協力について教えてください。
M:日本の研究者とは常に素晴らしい協力関係を築いてきました。私は1995年のオクラホマ連邦ビル爆破事件をきっかけにこの分野での研究を始めました。一方東北大学の田所諭博士が研究を始めたのは、神戸大学で教えていたときです。私たちが協力関係を築き始めたのは1999年で、東日本大震災前に既に3件の災害対応で協力していました。
日米間で築いた協力関係が今後も続き、拡大してほしいと思います。両国は全く異なる視点からロボット工学の教育に取り組んでいます。それぞれが補完的な発想や独創的な視点を出し合うことが、新たな技術革新を生み出す上で非常に重要です。
米国では、ロボット工学はソフトウエア、機械制御や人工知能を重視した教育内容になっています。一方、日本人研究者は、洗練された高性能な装置の製作に長けています。この点をうらやましく思います。

テキサスA&M大学 ロボット支援探索救助センター所長のロビン・マーフィー教授
A:レスキューロボットは人間に取って代わると思いますか?
M:ロボットが人間の救援隊の代わりになるとは思いません。そもそも、そういうことを目的に作られていないからです。消防車が消防士の代わりになりますか? もちろんなりません。それと同じで、ロボットは単なる道具であり、救援隊に新たな手段や方法、能力を提供しているわけです。つまり、私たちは救援隊を手助けしているのであり、救助隊員や救助犬の代わりになるものではありません。
災害時には、実に多くの関係者が意思決定を行ないます。インフラ、捜索・救助、医療体制、そして衛生設備や下水設備など、それぞれの分野で意思決定をする人々がいます。彼らが必要としているのは情報であり、このニーズがなくなることはないでしょう。ロボットはより多くの情報を、より正確かつ迅速に提供することができます。つまりロボットの役割は、彼らが最善の意思決定をより迅速に行なえるようにすることで、それによって人命が救われ、経済的な復興が迅速化します。
災害用ロボットは拡張し続ける分野です。私たちが災害用ロボットの研究を始めたころは、地震などで倒壊した建物の捜索に特化していました。今では、エボラ出血熱のような感染症への対処や医療関係者の防護、感染した場所の消毒など、ロボットを活用する新しい方法を検討しています。
A:ロボット工学や科学分野の仕事に興味を持つ日本の若者へメッセージをお願いします。
M:ロボット工学の研究は機械工学、電気工学やコンピューター技術だけに限定されません。他にも多くの分野が関係してきます。より賢いロボットを作るには認知工学、わかりやすくて、使いやすいロボットを作るには心理学が役立ちます。つまり、自分が持っているスキルや得意分野をロボットに応用することができます。
そして米国の大学院への進学を勧めます。留学する勇気が出ないなら、日本には交換留学プログラムがある大学がたくさんありますので、日本の大学院に進学し、米国で1年間勉強することも可能です。
米国では、大学院は世間を席巻するような技術革新を生み出す場です。プログラムの責任者になることや、会社の社長になること、起業することは誰にも可能です。どれほど創造力が豊かな人になれるかは、自分次第です。

テキサス州にあるディザスターシティ訓練施設で飛行ロボット「クアドローター」を操作するマーフィー教授
私にとって初めてのインタビューでもあり最初は緊張しました。しかしマーフィー教授が、ロボット工学に詳しくない私にも分かるようにとても丁寧に質問に答えてくださるうちに、次第に緊張も解けていきました。さまざまな質問に答えていただきましたが、特に教授がロボット工学の勉強を始めた経緯には驚きました。現在レスキューロボットの第一人者として活躍されているマーフィー教授がロボット工学の勉強を始めたきっかけが意外にも単純なものだと知り、何気ない決断が自分の将来にどう影響を与えるかは、後になって振り返って初めて分かるということをあらためて感じました。他にも、ロボットが人間に代わることのできない理由や日米のロボット教育の相違点などとても興味深いお話を聞くことができ、最後まで楽しくインタビューをさせていただきました。とても良い経験になったと思います。マーフィー教授から頂いた若者へのメッセージが、少しでも多くの方の心に届けば幸いです。
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