西山秀平 在日米国大使館報道室インターン

昨年11月12日から20日にかけて開催された日米野球は、日本の4勝2敗で幕を閉じた。中でも3戦目、侍ジャパンの4投手によるノーヒットノーランには、野球ファンのみならず、多くの日本人が感動したのではないだろうか。この記事では、野球を通じた日米間の交流を紹介していく。

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ケネディ大使主催のレセプションで、ペレス選手(カンザスシティ・ロイヤルズ)が筑波大学付属視覚特別支援学校の野球チームのメンバーを激励

日米野球発足後、長年にわたり、アメリカが日本に野球を教えに来るという色合いが強かったが、80年代以降日本の野球レベルが急速に向上し、その差は顕著に縮まった。さらに、日本人スター選手のメジャーリーグ挑戦も相まって、日米野球ひいてはメジャーリーグへの関心が一層高まり、日本のファンは日本人メジャーリーガーの凱旋やメジャーのスター選手たちの来日を心待ちにする一方、彼らと国内の強打者、好投手たちとの対戦に熱狂している。2014年のシーズン限りで現役引退した元北海道日本ハムファイターズの稲葉篤紀氏は、日本とはさまざまな面で異なるメジャーリーグの存在は良い刺激になるとした上で、「そこで活躍するスターたちと対戦できる日米野球が8年ぶりに開催され、コーチとして携わることができてうれしいし、今後も日米の野球を通じた交流を続けていけたら(いい)」とコメントしてくれた。

また、日本がWBCで連覇し、日本野球の名を世界に知らしめた。これがメジャーの選手の闘争心に火をつけ、日本野球に対する興味をかき立てたに違いない。今回の日米野球開催に当たっても、参加希望者が殺到したという。多くのメジャーの選手が日本の野球、さらには日本について興味を抱いてくれるのは日本人としてうれしい限りである。

Jeremy Guthrie, Chris Capuano, Mark Melancon

(左)メランコン選手、(中央)ガスリー選手

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インタビューに答える和田選手

シカゴ・カブスの和田毅選手は日本人メジャーリーガーとしての視点から「日米野球での交流を通じてアメリカの選手に、日本の野球のすごさや良い選手がたくさんいることを知ってもらいたい。そしていずれは、メジャーの選手が日本でプレーしたいと言う日が来るよう、これからもアメリカで日々練習し、日本に足りないものを習得し、引退後も、アメリカで培った経験を生かして日本野球の発展に貢献したい」と語ってくれた。ピッツバーグ・パイレーツのメランコン選手も、「多くの日本人選手が岩隈・和田投手にあいさつに来ていたのを見て、日本人選手の礼儀正しさに驚いたし、見習わなければいけないと思う。一方、文化の中に少しでも共通の部分を持っていれば、それは互いを理解するうえでの架け橋となりうる」と熱く語ってくれた。日系4世のガスリー投手は、自身を日本とアメリカ双方の野球親善大使だと表現し、日米野球をきっかけに30年以上連絡を取っていなかった母方の親族との交流を深めることができたという心温まるエピソードも披露してくれた。

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得点し、チームメイトに迎えられるカノ選手

普段、外国文化に触れる機会が少なくても、野 球を通してアメリカ文化に触れたことがある人は、日本に限らず多いはずだ。ドミニカ共和国出身のカノ選手はインタビューで「メジャーというさまざまな国から一流の選手が集まる多様性溢れる環境でプレーできることは、外国人選手たちにとって大変意義のあることだが、彼らの出身国にとっても大きな利益になっていると思う」と語ってくれた。

野球は世代を超えて引き継がれていく最高に楽しい外交手段だと言っても過言ではない。僕自身、MLBに日本人選手が挑戦してきたように、大学在学中にアメリカ留学に挑戦した。まったく異なる環境 でつらい思いをする中、現地で自分に足りない英語でのコミュニケーション能力を補ってくれたのは、いつも野球に関する知識や思いの強さだった。好きな選手の名前を言い合うだけで互いが打ち解け、笑い合える瞬間をつくってくれた。本当に、野球への思いは言語や国籍の壁を簡単に取り払ってくれる特別な力を持っている。日米野球に参加したリプケン選手が東日本大震災直後の2011年11月、野球を通して日本を元気付けるため宮城、岩手、福島の被災3県を訪れて行った野球クリニックのように、100年以上の歴史を持つ日米野球は両国を繋ぎ続けている。野球を通じた文化交流は今後ますます活発になり、子供からお年寄りまで、たくさんの人々に刺激を与える役割を担っていくだろう。

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2011年に行われたリプケン選手のクリニックの集合写真

【番外編:選手へのインタビュー】日米の野球の違いや異なる環境でプレーすることの意義・難しさ、日本人選手のメジャーリーグに対する思いを日米双方の選手の皆さんに伺ってきました!

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アルトゥーべ選手

Q. 文化的な違いで苦労したこと、メジャーリーグという多様性溢れる環境でプレーすることの意義について教えてください。
【アルトゥーべ選手(ヒューストン・アストロズ)】

A.「英語でコミュニケーションをとる難しさを克服するために英会話の教室に通い、球場の内外で英語でのコミュニケーションを積極的に取ろうと努力している」
アルトゥーべ選手はヒスパニック系で英語はまだ苦手なんだそうですが、彼のこのような地道な努力が昨年度の素晴らしい成績にも結びついたと思います。

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和田選手

【和田選手(シカゴ・カブス)】

A.「英語が話せず、コミュニケーションは難しいが、野球のプレーでは同じなので、その良し悪しによって拍手をいただいたり、スタンディングオベーションを貰ったりする。自分がしっかりやることでそれを見てもらえる、評価してもらえ、言葉や環境文化の違いを超えてみんなが1つになっていると感じたし、自分もその一員になれたと感じた」
言葉の壁を超え、1つになることの素晴らしさと、それに行き着くまでの和田選手の努力がひしひしと伝わってきました。

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前田選手

Q. 日本人選手にとってメジャーリーグでプレーすることの魅力はなんだと思いますか?
【前田選手(広島カープ)】

A.「日本の野球のレベルも上がってきたが、やはりアメリカの野球は違った意味でレベルが高いと思う。だが単にアメリカの野球のレベルが高いからという理由だけでなく、それに加えて環境の違いという部分がある。言葉も通じないし、食も文化も違うが、逆にそういう中でやることに醍醐味、魅力を感じる。自分に不利な状況、恵まれない環境に身を置いて得られることもあると思うし、だからこそ挑戦したいという気持ちがわいてくるんだと思う」
前田選手の強い反骨心と決意を感じさせられました。

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内川選手

Q. 国際試合の魅力について教えてください。

【内川選手(福岡ソフトバンクホークス)】

A.「国が違えば、チーム・選手の雰囲気が違う。その違いにいつもワクワクさせられるし、毎回違った発見がある」
「(国際大会でプレーする際)他の国の選手は、結果に捕われず、自分の力をどれだけ出せるかという部分を大事にして野球をのびのびと楽しんでいるのが印象的」
やはり、何事も楽しんでやるということが大事なんだなと、改めて感じさせていただいた一言でした。内川選手が仰ることで、その言葉がより一層重く感じられますね。