ミール・アルザップ

アメリカでは今、スタートアップ拠点の地図が塗り替えられつつある。従来、シリコンバレーや東海岸に集中していた拠点が、内陸部に広がりつつあるのだ。農業王国として知られるインディアナ州やネブラスカ州などが新たなイノベーション拠点として台頭、スタートアップが急速に成長し、事業者や起業家のネットワークが拡大している。

(J. Maruszewski/State Dept.)

(J. Maruszewski/State Dept.)

「シリコンバレー、ボストン、ニューヨークなどの知名度が高い都市ほどには大きく報道されませんが、他の都市も目立たないながら起業のエコシステム構築や活動促進を行っています」

そう語るのは、国際事業コンサルタント会社「全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)」のボビー・フランクリン代表だ。

NVCAはミズーリ州カンザスを拠点とする非営利団体カウフマン財団と共同で、アメリカ国内でスタートアップが盛んな都市のランキングを作成している。このランキングで上位を占めているのが、コロンバス(オハイオ州)、ナッシュビル(テネシー州)、インディアナポリス(インディアナ州)だ。これらの都市をはじめ、イノベーションや起業促進に熱心なアメリカの都市を紹介する。

コロンバス(オハイオ州)

(© Jumping Rocks/UIG via Getty Images)

(© Jumping Rocks/UIG via Getty Images)

オハイオ州の州都であり、州最大の都市コロンバスは、カウフマン財団が実施する起業10年以内に従業員数が50人を超えた企業数を示す「規模の拡大率」ランキングで首位を獲得した。コロンバスは、小規模事業主とその従業員を対象としたスキル開発研修を無料で提供する「小規模ビジネスプログラム」を実施、スタートアップの成長を後押ししている。

インディアナポリス(インディアナ州)

(© Robert Laberge/Getty Images)

(© Robert Laberge/Getty Images)

自動車レース「インディ500」の開催地として有名なインディアナ州の州都・インディアナポリスは、テクノロジー産業の拠点として知名度を高めている。2016年、当時の知事マイク・ペンス現副大統領が立ち上げたイノベーション・起業促進プログラムで、10年にわたり10億ドルの出資を行う。

オマハ(ネブラスカ州)

(© Alamy)

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オマハには、フェイスブック社の最新データセンターがある。また、中西部のハイテクやイノベーションを紹介するオンライン誌「シリコン・プレーリー・ニュース(Silicon Prairie News)」のように、メディアとスタートアップの橋渡し役として実績を残してきた。アメリカの地理的「中心地」としてだけでなく、小規模企業の創業者、投資家、新興企業のリーダーが参加する「ビッグオマハ」会議を開催するなど、イノベーションの主要拠点としても注目を集めている。

ナッシュビル(テネシー州)

(© Alamy)

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テネシー州の州都ナッシュビルは、カントリーミュージックファンにはよく知られているが、昨今ではテクノロジーの新興拠点としての存在感も高まっている。またテネシー州は、ナッシュビル起業センターの後押しにより、各業界の専門家と若い起業家を結びつけるプログラムを展開し、小規模企業に助成金やさまざまなリソースを提供している。

セントルイス(ミズーリ州)

(@ Raymond Boyd/Getty Images)

(@ Raymond Boyd/Getty Images)

セントルイスはスタートアップを支援するため、「スピリット・オブ・セントルイス基金」を通じて500万ドル規模の支度金を支給するほか、ミズーリ小規模開発センターが研修や技術サポートを提供している。また、インキュベーターオフィスやコワーキングスペースを比較的安価な費用で提供している。

ウィチタ(カンザス州)

(© Shutterstock)

(© Shutterstock)

カンザス州最大の都市であるウィチタは、費用の安さと土地の広さから、起業しやすい都市トップ5に常にランクインしている。しかし、起業へのハードルが低いことだけで、カンザスがイノベーション拠点になったわけではない。また、ウィチタだけがカンザス州の起業拠点でもない。アメリカ起業家センターの報告書によると、女性起業家への資金援助において、カンザスシティは他の中西部の都市を大きく引き離している。

 

このような取り組みは、アメリカ各地でスタートアップの成長を支援するのに不可欠であるというのが、企業経営者の共通認識である。

「シリコンバレーの誕生は、幸運や偶然の産物ではありません。ましてや、その土地の水が人を賢くしたからでもありません」とコンサルタント会社マッキセン・アンド・カンパニー(本社:ミズーリ州)の創業者であり、シリコン・プレーリー・ニュースのコラムニストでもあるダスティン・マッキセン氏は言う。サンフランシスコ湾の南にあるサンタクララバレー、つまり現在のシリコンバレーでハイテク企業が成長できたのは、スタートアップへの資金提供や投資が行われた結果だとマッキセン氏は説明する。この同じ資金の流れが、今アメリカ中部に起きている。