ローレン・モンセン 米国国務省スタッフライター

アジア系米国人作家によるアイデンティティーと文化的ルーツの探究

現代の生活を皮肉とユーモアを交えて描いた「Shortcomings」の作者、エイドリアン・トミネ。右は、ペンとインクで描いた自画像(写真 Courtesy photo)

近年、アジア系米国人の漫画家や作家が、かつて主に青少年に人気のあった表現手段である漫画やグラフィックノベルに大人の感性を加味した、知的な作品の作者として、かなり知られるようになってきた。

「グラフィックノベル」とは、漫画とせりふを組み合わせた表現方法のひとつだが、従来の漫画より大人向けのテーマを扱う。現在、このジャンルに、アジア系米国人作家が自らの視点を加えている。グラフィックノベルを通じて、エイドリアン・トミネ(日系4世)、ジーン・ルエン・ヤン(中国系米国人)、デレク・カーク・キム(8歳で米国に移住した韓国系米国人)などの作家たちは、アイデンティティーについての問題、文化的ルーツ、白人多数派社会で民族的マイノリティーとして育つことに関連する社会問題などを考察している。

「Optic Nerve」という漫画シリーズの作者であるトミネ氏は、まだ10 代のころに作品を自費出版し、ある種の天才として知られるようになった。現在トミネ氏は30 代半ばで、パブリッシャーズ・ウィークリー誌が「たまらなく魅力的なグラフィックノベルの傑作」と称賛した「Shortcomings」(2007 年)の作者である。この作品は、30 歳の日系人ベン・タナカという登場人物を中心に、文化的同化、人種が異なる人間間の交際での心のあや、そして時に屈辱的な自己発見の過程について問題を提起している。

トミネ氏はインタビューで、「Shortcomings」は主人公が日系人なので、自伝だと誤解されることがあると述べた。「『Shortcomings』は全くのフィクションだが、長年心に留めたり観察したことから生まれた作品」と言う。「漫画家として働き始めたころ、なぜ自分の民族的伝統について描かないのかと頻繁に尋ねられたので、ちょっと驚いた。民族的マイノリティーの人間が創作活動を行う時には、自分の経験だけに焦点を絞るべきだと思われていることに少し反感を覚えた」とトミネ氏は当時を思い起こして言った。「でも時間がたつにつれ、自らの経験を描きながら、自分のほかの仕事との一貫性を保つにはどうしたらいいか考えるようになった」と言う。トミネ氏は、アジア系米国人であろうと、ほかの誰であろうと、一般化を意識的に避けた。「私にとっては、教訓めいた発言やスタンドプレーを避けることが大切だった」と語った。

ジーン・ルエン・ヤンは、「American Born Chinese」の作者で、短編集「The Eternal Smile」の共同執筆者(写真 First Second Books)

「Shortcomings」の書き出しでは、主人公のベンとガールフレンドのミコが、カリフォルニア州バークリーで一緒に暮らしていることが語られる。ミコは、ベンが白人女性に魅力を感じているのではないかと疑っている(それは本当だが、彼は否定している)。放っておかれて悲しくなったミコは、表向きはインターンシップを受けるという理由でニューヨークに旅立つ。ベンは、ミコが本当は別れようとしていることに気づいていない。2人の関係は単に一時休止の状態であり、ミコの不在は、彼女に知られることなく白人女性とデートできるチャンスと考えている。その後しばらくして、ベンは友達に強く勧められてニューヨークに行く。そしてミコを探し出すが、ミコに新しい(異なる人種の両親を持つ)ボーイフレンドがいると知ってショックを受ける。

トミネ氏の地味な白黒の絵と完ぺきなせりふ回しによって、主人公の自己偽善が明らかになる。ベンは、自分には違う人種の女性と交際する権利があると感じているが、ミコが同じことをすると嫌がる。「Shortcomings」は短い場面が次々と切り替わって物語が展開し、混沌(こんとん)としがちな現代生活を描きながら、ベンが成熟への第一歩を踏み出した可能性を示唆する。「この物語の結末は読み手の解釈に任せてあり、もどかしく思われるかもしれない」とトミネ氏は言う。作者は今後の作品にベンを再登場させるつもりはないため、彼の今後はあいまいなままであろう。トミネ氏は「私が、ベン・タナカを描き続けることは簡単だし、楽しくもある。だからこそ、私は描き続けるべきでないと思う」と付け加えた。「『Shortcomings』が完ぺきな作品とは思っていないが、この物語を続けていけば、これまでにつくり上げたものを損なうだけなのは間違いない」。彼の次の作品は、フルカラーのイラストで描いた、それぞれ関連性のある作品を集めた短編集である。

トミネ氏と同様、「American Born Chinese」(2006 年)の作者のヤン氏と「SameDifference and OtherStories」(2004 年) の作者キム氏は、コミック業界内で崇拝されるような地位を獲得し、さらに純文学でも才能ある作家として名声を確立した。マイケル・L・プリンツ賞を受賞し、全米図書賞の最終選考作品に選ばれた「American BornChinese」は、中国の寓話(ぐうわ)に、米国の高校でマイノリティーとしての立場に反発する10 代の中国系米国人の物語を織り交ぜた作品である。キム氏は、米国で育ったが韓国の思い出も持ち続けている韓国系米国人1世の視点を持っており、その短編集は、登場人物であるカリフォルニア州北部に住む韓国系米国人の弱点をユーモアたっぷりに描いている。友人であり仕事仲間でもあるヤン氏とキム氏は、新たに出版した「The Eternal Smile」(2009 年)を共同執筆した。この作品では、ヤン氏がせりふを書き、キム氏が絵を描いた。

グラフィックノベルのファンは、急速に拡大している。つまるところ、トミネ氏のような作家はこのジャンルを用いて面白い話を書きたいと思っている。「『Shortcomings』に対する最高の賛辞は、面白かったという言葉だ」とトミネ氏は言う。