レノア・アドキンス

米国メディア界で存在感を増す非営利の報道機関は、商業メディアで不足しがちな調査報道や地域密着型の情報をニュース視聴者に提供しています。

非営利ジャーナリズムとは?

従来のニュースソースが購読者や広告主からの収入に頼っているのに対し、非営利ジャーナリズムは、地域社会へ特定の公共サービスを提供することに専念しています。広告収入を求めない分だけ、有名人や流行の話題を避け、地域における汚職の監視役や、営利目的の競合他社があまり取り上げない地域ニュースの提供者として活動できます。

とはいえ、非営利のジャーナリストとそのプラットフォームが生き残るためには、収入が必要です。彼らは通常、個人、慈善団体、財団から運営資金の多くを調達します。しかし、このような寄付以外に、他の収入源も確保しなければなりません。「非営利はビジネスモデルではなく、税制上の位置づけです」と、ナイト財団(Knight Foundation)でジャーナリズムを担当するジム・ブレイディ副社長は言います。

地域の問題に光を当てる

弁護士としてキャリアを積んだ後、ジェフリー・キングは故郷のカリフォルニア州バレーホで、質問や公文書請求に多くの時間を費やすようになりました。やがてキングは、サンフランシスコ近郊の労働者階級の町の汚職に光を当てようと、「オープン・バレーホ(Open Vallejo)」という調査報道サイトを立ち上げました。

無党派の独立系ニュースサイト「アーカンソー・ノンプロフィット・ニュース・ネットワーク(Arkansas Nonprofit News Network)」は、同州に関する調査記事や特集記事を制作しています。独自のプラットフォームでニュースを公表し、州内のメディアに無料で配信し、多くの人々の関心を集めています。

州間高速道路40号線の橋梁の亀裂 (© Tennessee Department of Transportation/AP Images)

州間高速道路40号線の橋梁の亀裂 (© Tennessee Department of Transportation/AP Images)

テネシー州とアーカンソー州を結ぶ橋 (© Adrian Sainz/AP Images)

テネシー州とアーカンソー州を結ぶ橋 (© Adrian Sainz/AP Images)

同ネットワークは今年、テネシー州とアーカンソー州を結ぶミシシッピ川にかかる交通量の多い橋に亀裂が入っているという記事で、テネシー州のデーリー・メンフィアン(Daily Memphian)紙と協力しました。橋が安全でないことを当局が発見し、検査官を解雇して必要な修理を行った後で、記者たちはアーカンソー州の橋梁検査プログラムについて調査を行いました。その結果、このプログラムには不十分な点があることが分かり、その情報を一般公開しました。その後、連邦道路管理局がプログラムを検証したところ、記者たちの発見と同じ問題が判明しました。管理局は改善勧告をいくつか発令し、必要な対策を講じるよう指示しました。

他にも非営利のメディアが活躍している例があります。

  • イリノイ州では、「ブロック・クラブ・シカゴ(Block Club Chicago)」の記者が、市内13地域で地域密着型のニュースを取材
  • ミネアポリスの「サハン・ジャーナル(Sahan Journal)」は、移民のコミュニティーを取材し、移民の記者を活用
  • 「MLK50:ジャーナリズムによる正義(Justice Through Journalism)」は、テネシー州メンフィスのニュース編集局で、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが熱心に取り組んだ問題、すなわち貧困、権力、政策について報道

なぜ、非営利のニュースが盛んなのか?

ミズーリ大学ジャーナリズム学部のデーモン・キーソー教授によると、米国のスタートアップ文化が、非営利ニュースの成長を後押ししています。

「デトロイトのように、地域社会の特定のニーズを満たす非営利のニュース編集室がたくさん生まれています」と教授。そして、非営利団体は「ニュースとは何かを改めて定義できる」記者や編集者を雇用していると付け加えました。

インスティテュート・フォー・ノンプロフィット・ニュース(Institute for Nonprofit News)のディレクター、スー・クロスによると、この組織に所属する352のニュース編集室は4000人を雇用し、1日に1000本の記事を作成しているそうです。

このブームの背景には、利潤獲得を前提とする商業新聞社の財政難もあります。ポインター・インスティテュート・フォー・メディア(The Poynter Institute for Media Studies)のリック・エドモンズによれば、広告収入はここ数年、毎年10%から15%減少し、読者は非営利のオンライン出版物に移行しつつあるといいます。

さらに、フィラデルフィア・インクワイアラー(Philadelphia Inquirer)やソルトレイク・トリビューン(Salt Lake Tribune)など、有名な商業新聞のオーナーは、これらの企業を非営利団体に変え、そうしなければ得られなかった資金を集めていると、ナイト財団のブレイディは言います。

また彼は、営利目的の放送局が、地元の非営利公共ラジオ局と合併し非営利団体になった例も挙げています。

  • ゴサミスト(Gothamist)は、ニューヨークのWNYCラジオ局と合併
  • NJスポットライト(NJ Spotlight)は、ニュージャージー・パブリック・ラジオ(New Jersey Public Radio)が買収
  • ライスト(LAist)はロサンゼルスのナショナル・パブリック・ラジオ局が買収

これらの非営利団体は「さまざま物事に目を光らせている」とブレイディは言います。市議会や教育委員会、地元の役人の責任を追及するのが彼らの役割です。

非営利団体のニュースは「成長を続け、成功を収めています。将来的には米国人が視聴し利用するニュースの中で相当割合を占めるようになるでしょう」とクロスは言います。

バナーイメージ:非営利報道機関「ザ・カンバセーション(The Conversation)」で働くボストンのジャーナリストたち (© Jonathan Wiggs/The Boston Globe/Getty Images)

*この記事は、ShareAmericaに掲載された英文を翻訳したものです。