リチャード・ロバーツ 在沖米国総領事館 広報担当領事

1995年当時LGBTQI+であることは、現在とは異なっていました。 今よりもずっと、カミングアウト(自分の性的アイデンティティーを他人に知らせること)やアウティング(本人の許可なく他人がその人の性的アイデンティティーを勝手に明かすこと)に対する恐怖や不安があったのです。1995年の米軍では「Don't Ask, Don't Tell(尋ねない、答えない)」という政策が施行されており、LGBTQI+の軍人は自分のアイデンティティーをオープンにすることができませんでした。米軍関係者に限らず多くの人にとって、アウティングは現実的な問題を招くものでした。カミングアウトやアウティングで、仕事や住居、家族、友人などを失う可能性があったのです。

当時は多くの人にとって性的アイデンティティーを隠すことを余儀なくされた時代ではありましたが、仲間意識と包容力のある時代でもありました。1990年代半ばの沖縄のLGBTQI+コミュニティーは活気にあふれ、仲間を温かく迎え入れてくれました。日米両国のLGBTQI+の人々は、強い一体感と友情を持って集まりました。 携帯電話もアプリもインターネットもない時代です。私たちがお互いを見つけてコミュニティーを作るには、個人的な強いつながりを維持するしかありませんでした。そしてそれこそが、「Heaven」という天国に足を踏み入れるための秘密の方法だったのです。

「Heaven」のパスポート

「Heaven」のパスポート

「Heaven」はLGBTQI+のパーティーです。沖縄市のゲート2通りのコザ交差点にある古いビルの地下で、月に1回開かれていました。その建物は、「コザ・ミュージックタウン」建設のために取り壊されてしまいました。Heavenに参加するには、通りから狭い階段を下りていきます。階段の下には、参加者の「パスポート」をチェックする係が待っていました。「パスポート」を持っていれば、重い黒いベルベットのカーテンが引かれ、古いソファや椅子を壁に沿って並べた仮設のバーエリアが現れます。この部屋は、ダンスフロアになっている隣の空き部屋とつながっています。狭くて窮屈でした。 窓もなく、何の装飾もありません。 それでも、そこはHeaven―天国なのです。 好きな人と踊り、じゃれ合い、手をにぎり、キスを交わす。ありのままの自分でいられるのです。当時の沖縄でこのようなことを「公共の場」でできたのは、どれほど貴重なことであったか。そして、それがどれほどの解放感をもたらしたか。いくら強調しても大げさではないでしょう。

初めてHeavenに参加するには、既にパスポートを持った人に連れられて階段を下りるしかありません。 通りから音楽が聞こえてきて、何事かと思って階段を下りてきた好奇心旺盛な通りすがりは入ることができません。パスポートを持っている人が保証人になって初めて、新人にパスポートが与えられるのです。たとえLGBTQI+の当事者であったとしても、誰かの保証がなければ入ることはできません。 この厳格な入場制限とプライバシーへの配慮があったからこそ、Heavenの参加者は快適に、そして安心して過ごすことができたのです。

ピンクドットに参加する在沖米国総領事館スタッフら。左端はロバート・ケプキー総領事。2018年撮影

ピンクドットに参加する在沖米国総領事館スタッフら。左端はロバート・ケプキー総領事。2018年撮影

沖縄のLGBTQI+の人々にとって、時代は確実に変化しています。 在沖米国総領事館の広報担当領事として、領事館が沖縄最大のLGBTQI+プライドイベント「ピンクドット」に毎年ブースを出展していることを誇りに思っています。 ピンクドットは、楽しさと笑いに満ちあふれた祭典です。米国は世界中の人権擁護団体と連帯し、LGBTQI+の人々が報復の恐れなく、尊厳を持って生きる権利を保証する活動に取り組んでいます。そのためにも沖縄に領事館が存在するのだと思うと、私の笑みはさらに大きくなるのです。

ピンクドットでは、私が初めて沖縄に住んだ1990年代や、その後滞在した2000年代初めの頃からの友人と出会うことがあります。月に一度Heavenのような場所に参加できただけでも幸運だった時代を振り返り、決まって話すのは、日米両国の社会の進歩に対する喜びと驚きです。まだまだ課題はありますが、私が現在感じるLGBTQI+の人たちに対する受容度は、25年前にはほとんど考えられなかったレベルです。 しかしある意味では、当時真実であったことは今でも変わらずに真実です――友人という存在があって初めて、「天国」は存在するのです。

2017年のピンクドットでの一コマ

2017年のピンクドットでの一コマ

リチャード・ロバーツ:在沖米国総領事館で広報担当領事を務める。2006年に国務省入省。これまでに、ニジェール、東京、韓国、モンゴルの米国大使館に勤務している。

バナーイメージ:2017年のピンクドットに参加する筆者(右から2人目)と在沖米国総領事館スタッフら