ウヤンガ・エルディンボルド

犬を愛する私が東京に来て最初にしたことの1つは、渋谷に行って忠犬ハチ公像を訪ねることでした。

飼い主が亡くなった後も同じ場所で主人を待ち続けたハチ公の物語は、世界中の愛犬家の心をつかんでいます。間違いなく私もその1人です。

ハチ公像の周りにはたくさんの人がいて、人間の犬好きは世界共通なのだと思いました。実際に最近の研究では、犬は人間の最も古い伴侶であることが分かっています。それが真実である理由を考えるのは難しいことではありません。犬が示す無条件の愛と忠誠心は、ほとんどの人の心をつかみます。私の個人的な経験から言うと、移動と自立のために人が犬に依存する場合、その関係はより大きな意味を持つようになります。

ちょうど4歳の時、私は先天性の目の病気と診断されました。子供の頃から徐々に視力を失い、10代後半になると杖をついて歩かなければならなくなりました。私は現在37歳ですが、12年前に杖から盲導犬に切り替える決断をしました。それは私の人生を変える最も重要な決断でした。単純な移行のように思われるかもしれませんが、盲人と盲導犬の絆は、他のどの関係とも比べようがありません。杖の代わりに美しい黄色のラブラドールがそばにいてくれることに利点があることは認めます。「なんと美しい杖なんでしょう」とか、「すてきな杖がもっとスペースを取れるようビジネスクラスに変更しましょうか?」と言われることはありません。

私は2018年7月、アメリカ大使館に勤務する夫とよちよち歩きの息子、そして盲導犬のダナウェイと共に東京に着きました。日本は魅力的な国で、東京で暮らしてこの国の文化を学べる機会に感謝しています。日本に来て、盲導犬のユーザーとしてそれなりの差別や数々のバリアフリーに関する問題を経験しました。こういった課題を解決する最良の方法は、盲導犬が私のような視覚障害者にどう役立っているかを人々に理解してもらうことだと分かりました。東京の人たちとの付き合いから、多くの人にとって盲導犬を経験するのはダナウェイが初めてだと知りました。

こういった人々との出会いの中で、多くの人が旺盛な好奇心を示し、数多くの質問を受けました。そのほとんどがダナウェイの役割や私との関係についてです。初めはこの街で盲導犬を連れている人が少ないことに驚きました。盲導犬を連れた他の人に出会ったのは日本に来てから1年後、横浜のレストランで食事をしていた時です。後で知ったのですが、日本で最大の盲導犬学校の1つは横浜に近い日本盲導犬協会神奈川訓練センターでした。

2018年、有名な東京都渋谷区のハチ公像を訪れるウヤンガ・エルディンボルドさんと愛犬のラブラドール「ダナウェイ」 (Courtesy of Uyanga Erdenebold)

2018年、有名な東京都渋谷区のハチ公像を訪れるウヤンガ・エルディンボルドさんと愛犬のラブラドール「ダナウェイ」 (Courtesy of Uyanga Erdenebold)

日本に来るずっと前、私はモンゴルのアメリカ大使館で働いていました。当時私が飼っていたのはモンゴル初の盲導犬で、介助犬の認知度を高めるために多くのことをしなければなりませんでした。その際に役立ったツールの1つが、全くの偶然なのですが、「クイール」という盲導犬の生涯を描いた日本映画でした。この映画はモンゴル語に翻訳され、国営テレビで放映されました。

たまたま映画に出てくるクイールという犬が私の盲導犬にとても似ていたので、同じ犬だと思った人も多かったようです。映画が放映された後、学校を訪問したり、通りを犬と一緒に歩いていると、子どもたちが「見て!見て!あの映画の犬だよ」とささやくのが聞こえてきました。中には「あのクイールですか?」と単刀直入に尋ねてくる人もいました。そういった訳で、日本は私の記憶の中でずっと特別な存在となり、ハチ公とクイールの物語のおかげで、日本には気心の合う人たちがいるだろうという希望を抱いたのでした。

東京が世界で最も清潔で整然とした都市の1つであることはよく知られています。3000万以上の人々が暮らす首都圏の規模と人口を考えれば、全てが整然としていることに驚かされます。障害者の私にとって東京は間違いなく、これまで訪れた中で最も物理的にアクセスしやすい街です。

しかし、アクセシビリティには、物理的な面(障害者用のスロープや傾斜、エレベーター、音響式信号機、視覚障害者誘導ブロックなど)と、人々の意識面の2種類があります。真にインクルーシブな社会を実現するには、後者が重要な役割を果たします。ポジティブな経験が多い日本においても、レストランやコーヒーショップの入店やタクシーへの乗車を拒否されることがあります。このようなケースはまれですが、意識面のアクセシビリティと国民教育の重要性を再認識させられます。理解や意識の欠如は差別や誤解のもとになり、単なる道具に過ぎない物質的な資源の欠如よりも深刻な結果をもたらします。社会が理解し受け入れることが、こういった道具を動かすことになるのです。

ハチ公の不滅の愛と忠誠心を尊重する日本で、私の愛犬ダナウェイも同様に受け入れられればと思います。ダナウェイの忠誠心とガイドは、私の日常生活に欠かせないものです。日本でのこれまでの経験から、皆さんがそうしてくださると信じて疑いません。

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ウヤンガ・エルディンボルドさんは、米国務省とNGOで9年以上の経験を有する広報・外交の専門家です。現在は在日アメリカ大使館のダイバーシティおよびインクルージョン評議会の理事を務めています。ウヤンガさんとダナウェイは、介助犬に対する意識の向上、多様性とインクルージョンの促進に努めています。連絡先は"Uyanga.erdenebold@gmail.com"です。ウヤンガさんのTEDxトーク「困難な世界における理解と受容」をご覧ください。

バナーイメージ:「デールの日」に、かつての盲導犬グラディスを抱きしめるドレスアップしたウヤンガ・エルディンボルドさん。デールはモンゴルの伝統的な民族衣装 (Courtesy of Uyanga Erdenebold)

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*本記事はThe Japan Timesの許諾を得て、以下を翻訳したものです。

Erdenebold, Uyanga. “The Bond between a Blind Person and Her Guide Dog Is Hard to Compare to Any Other Relationship.” The Japan Times, 16 Nov. 2020, www.japantimes.co.jp/community/2020/11/16/voices/blind-guide-dog-relationship/.

*The Japan Timesからの許諾を得て、この記事を掲載しています。無断複写および転載を禁じます。また、The Japan Timesの許可がない複製行為は固く禁じられています。