副大統領は、米国政府の中で重要な役割を果たします。中でもとりわけ重要な職務は、大統領が死亡した場合、大統領職を速やかに引き継ぎ、全ての大統領権限を担うことです。
過去にこのような事情から副大統領が大統領になった事例は8件あります。大統領の不在を埋めた9人目の副大統領は、このときは大統領の辞職を受けて就任したものでした。大統領選挙に出馬した副大統領もおり、今までに5人の副大統領が勝利しています。過去の全ての副大統領の30%にあたる14人の副大統領が大統領になり、オーバルオフィス(=大統領執務室)の主となっています。
副大統領の仕事は、万一のとき大統領職を引き継ぐだけではありません。副大統領は、大統領の腹心、相談役であるとともに、議会や国民を説得する役割を果たし、特使として外国に派遣されることも少なくありません。
例えば、ペンス副大統領は4月に、米国の主要同盟国と協議するため、アジア太平洋地域を訪問します。2月には、ドイツで各国首脳と会談しました。
憲法では、副大統領は上院議長であると規定されていますが、その役割はほとんどの儀礼的なものです。定員100人の上院で採決が可否同数になった場合のみ、決裁票を投じます。
その他の権限は特定されていませんが、実際は「副大統領職は、大統領の職務の中枢を占めるまでになった」と、セントルイス大学のジョエル・ゴールドスタイン法学部教授は指摘します。副大統領はあらゆる面での相談役であり、問題が発生したときは仲裁にあたります。
ジョージ・W・ブッシュ大統領の下、副大統領を務めたディック・チェイニーは、9.11同時テロ事件を受けて軍事作戦の策定に貢献しました。ビル・クリントン政権のアル・ゴア副大統領は、環境問題に目を向けました。
オバマ前大統領は、ジョー・バイデン副大統領を「私に率直に意見を言ってくれる人」と、高く評価していました。
合衆国が誕生した頃は、最多の選挙人投票を獲得した候補者が大統領になり、次点候補者が副大統領になっていました。1804年以降は、選挙人団が、大統領と副大統領候補にそれぞれ投票していました(現在は、大統領候補者が自ら選んだ副大統領候補者とペアで出馬します)。
待機する副大統領
1841年の就任式で風邪をひいて亡くなったウィリアム・ヘンリー・ハリソン大統領の跡を継いだ、ジョン・タイラー副大統領は、死亡した大統領の後任となった初の副大統領です。連邦議会は、全ての大統領権限がタイラーに帰属することを認めたがらず、タイラーを中傷する人たちは彼を「His Accidency(=偶発で生まれた大統領)」とからかいました。タイラーは、確固たる姿勢で大統領職に臨み、その後、副大統領が大統領職を引き継ぐことに異論が出ないほど素晴らしい先例となりました。
1963年のジョン・F・ケネディ大統領暗殺後に承認された憲法修正第25条は、承継手続きを規定し、新副大統領が議会承認をもって任命されることが認められました。これより前は、大統領が死亡した場合、副大統領職は次の大統領選挙まで空席となっていました。
副大統領を経て大統領になった人物で最も知られている2人といえば、トーマス・ジェファソン大統領とセオドア・ルーズベルト大統領です。この他、後に大統領となった副大統領は、ジョン・アダムズ、マーティン・バン・ビューレン、ミラード・フィルモア、アンドリュー・ジョンソン、チェスター・アーサー、カルビン・クーリッジ、ハリー・トルーマン、リンドン・ジョンソン、リチャード・ニクソン、ジェラルド・フォード、ジョージ・H・W・ブッシュがいます。
副大統領邸は、ホワイトハウスから数マイル離れたところにあります。飛行機での移動では空軍機を使用します。
多くの副大統領は、自虐的なユーモアのセンスにあふれています。ペンス副大統領の場合は、自らをトランプ大統領と比較し、「私たちの違いは、ほんの少しです。私は田舎者ですが、大統領は都会っ子です。大統領には、存在感、魅力、カリスマ性がありますが、私にはありません」といった、冗談を飛ばします。
COMMENTS1
今年就任された副大統領は近年以上の活躍が求められますね。
特に北朝鮮が不穏な動きをしているだけにアメリカの調整力が必要だと私は思います。
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