アメリカ大学協会シニアフェロー
ホセ・アントニオ・ボーウェン博士インタビュー

画家、ミュージシャン、俳優などのアーティストは、知名度が低くても、好きなことをして生計を立てることができるのでしょうか?

ミュージシャンで学者のホセ・アントニオ・ボーウェン博士は、アーティストであると同時に起業家であれば可能と話します。ボーウェン博士は、ガウチャー大学の前学長で、現在はアメリカ大学協会シニアフェローを務めています。

ジャズ演奏家としてキャリアをスタートさせたボーウェン博士は、スタン・ゲッツ、ディジー・ガレスピー、リベラーチェなど、多くのミュージシャンと共に5大陸で活躍しました。現在は、クリエーティブな舞台芸術のキャリアに関心を持つ人々を対象に、芸術起業についてのワークショップを開催しています。

ボーウェン博士は、芸術起業のイノベーターであるばかりでなく、アクティブ・ラーニングと授業環境デザインの先駆者でもあり、その取り組みは、ニューヨーク・タイムズ、フォーブス、ザ・クロニクル・オブ・ハイヤー・エデュケーション、ナショナル・パブリック・ラジオなどの多くのメディアで取り上げられています。

ボーウェン博士は2019年11月、アメリカ大使館主催のスピーカー・プログラムなどのため日本を訪れました。同大使館公式マガジンの「アメリカン・ビュー」は、東京滞在中の博士にインタビューを行い、クリエーティブな起業についての考えと、アメリカの大学が意欲的なアーティストに教える独自の方法についてお話を伺いました。

「アメリカン・ビュー」とのインタビューで芸術起業について語るホセ・アントニオ・ボーウェン博士

「アメリカン・ビュー」とのインタビューで芸術起業について語るホセ・アントニオ・ボーウェン博士

アメリカン・ビュー: 芸術起業とはどういったものですか?

ボーウェン博士:若者の多くは、ほとんどのアーティストがフリーランスだと認識していません。会社のためではなく、自分のために働くことには多くの利点があります。

しかしそれは自らが、給料計算、法的事案、マーケティング、販売のトップ、つまり最高経営責任者(CEO)であると同時に、自分自身が商品でもあるということです。アーティストに経営学の学位は不要ですが、収益をもたらすにはどうしたらよいかを、クリエーティブに考える必要があります。

アーティストとして生計を立てることは可能ですが、そのほとんどは、名の知れた人でさえフリーランスで起業家です。

起業家といえば、アップルやグーグルの創業者を思い浮かべる人が多いと思います。確かに彼らは起業家ですが、新しい事業を起こす人は全て起業家なのです。

その性質上、起業家精神は、革新性、創造性、柔軟性、適応性、回復性、献身性、戦略性など、アーティストになるために必要とされる一連の要素と同じです。ある意味自分で自分の作品を作るという、人生やビジネスに対するアメリカ人の姿勢とも言えます。

アメリカン・ビュー: 芸術に携わる人たちが起業家になるにはどうすればいいのですか?

ボーウェン博士:大学で学ぶ学生にとって、一般的に芸術に携わる人といえば2通りのタイプがあります。有名なアーティストか、彼らが高校で教わった音楽や美術の教師です。

ところが、ほとんどのアーティストはそのどちらでもありません。彼らは小さなお店を経営したり、ウェブサイトを持っていたり、結婚式のバンドで演奏したりしています。99%の仕事がそのようなことなのです。

実際にバイオリン奏者として生計を立てている人のほとんどは、地味な仕事をしています。

もちろんアーティストとしての作品は、良いものでなければなりません。下手なバイオリン奏者ではやっていけません。しかし、バイオリンが上手というだけでは、自分の演奏で生計を立てていくには決して十分とは言えません。

必要な3つの条件は、良い芸術作品を作り、収入も得て、社会に貢献することです。この3つがそろえば、おそらくアーティストとして、楽しくやる気にあふれ、意味のある人生を送ることができるでしょう。

ピアノを演奏するボーウェン博士

ピアノを演奏するボーウェン博士

アメリカン・ビュー: アーティストを志す者がアメリカ留学するメリットは何でしょう?

ボーウェン博士:アメリカ留学の最も良い点は、芸術以外の勉強が必要なことです。バイオリン奏者になるのに必要なのは、たくさん練習して本物の技術を身につけることです。でもそれだけではなく、アーティストとして何か伝えるものがなければなりません。

歴史、英語、物理学などのコースは、視野を広げます。必ずしもバイオリン技術の向上にはつながりませんが、学生をより良いアーティストに育てます。学問に流動性があるのは、誰の知性にとっても良いことです。しかし特にアーティストにとって、別の分野に関心を持つ人たちと共に学び、多様性や精神的な軋轢を経験できるのは素晴らしいことです。

この点でアメリカのシステムは、全てのアーティストをひとまとめにして分ける世界のやり方とは違うと言えるでしょう。アメリカの大学の利点の1つは、アーティストを必ず1年か2年間、アーティスト以外の人たちと一緒にし、異なる考え方を経験させることです。

アメリカン・ビュー: アメリカの大学で、特にユニークなプログラムはどのようなものでしょう?

ボーウェン博士:アメリカの大学はアートとテクノロジーの融合に注目しており、それが現在進んでいます。

ビデオゲームやアニメーションなど、クリエーティブなコンピューター操作のプログラムがあります。またデジタルアートのようなプログラムもあり、学生は目の前にいる人たちに反応するデジタル人物画を創出することもあります。

私が悲しい顔をすれば、人物画も悲しい顔をします。私が幸せそうに見えれば、人物画も幸せそうに見えます。それはアートであると同時に、心理学の要素も入ってきます。また、顔認識と巧妙な操作も関係してきます。

アメリカの大学は、新たな学位を発明するのが得意です。ファッションやソーシシャルメディアなど、そういった類の新しい学位もあります。

新しい分野は常に生まれています。アメリカで新分野が誕生すると、誰かがすぐに専攻科目を作ります。その分野で人を雇いたいと考えるからです。デジタル・ジャーナリズムがそのような例として挙げられます。

学生が自分で専攻科目を考案することもしばしばあり、6カ月後には我々がそれを他の学生に提供したりします。

EducationUSA主催の「アメリカ芸術系大学留学フェア」で講演するボーウェン博士。2019年11月20日

EducationUSA主催の「アメリカ芸術系大学留学フェア」で講演するボーウェン博士。2019年11月20日

アメリカン・ビュー: アメリカ留学を希望する日本人学生にアドバイスをお願いします。

ボーウェン博士:アメリカの大学は、できるだけ多様な人たちに来てもらいたいと考えています。なぜなら、大学は学生が成長する場所であり、彼らが異なる考え方に触れ、苦労しながら進むのが良いことだと考えられているからです。

その狙いは、学生が違和感を持ち、自身の前提を見直すことです。我々は学生に、自分の基本的な考え方全てに疑問を持ってもらいたいと思っています。それが、我々が新たな問題を解決する方法だからです。

アメリカの教育では、何を専攻するかは問題ではありません。興味のある分野を選べばよいでしょう。肝心なことは、幅広い教育を受け、道具箱からあらゆるツールを得ること。そして、卒業するまでに考え方を柔軟に変えられるよう準備し、新たな物事を学べるようにすることです。

ほとんどの雇用主がそのように望むと我々に述べています。それはアメリカだけでなく、日本でも同じことが言えるでしょう。

バナーイメージ:東京・四谷のWeWorkで行われたアメリカ大使館主催の留学イベントにて。2019年11月21日