ジェイソン・ハイランド 在日米国大使館 首席公使

言語学習は、常に「ゼロ」から始まります。在ウクライナ米国大使館に赴任する前、ウクライナ語研修を受けたのですが、予備知識は全くのゼロだったことを思い出します。教科書の1ページ目を開き、「Tak = Yes」「Ni= No」という単語を見たときの高揚感。この2語だけで、勉強が進んだと思いました。

といっても、外国語は一朝一夕で習得できるものではありません。私が外国語を勉強する際に心がけているのは、最初は自分がわかっていないことをなるべく表に出さないようにすることです。しかし、このやり方は時に決まりの悪い結果を招くことがあります。「Yes」か「No」で答える質問をされたとき、たとえ何を聞かれているのか見当がつかない場合でも、自信を持って「Yes!」と答えるようにしています。もし聞き手が驚いた反応をしたら、すぐに「Noかな?」と切り替えます。すると、たいていの場合、聞き手の表情に安堵が広がります。

私はカリフォルニア大学バークレー校在学中に、冗談半分の気持ちから日本語の受講を決めました。というのも、日本に行ったこともなければ、日本人に会ったこともなく、日本の歴史や文化すら勉強したことがなかったからです。日本語との出会いにより、授業第一日目から、私の人生は変わったのです。

しかし、初めて日本に来たときは、怖くて口を開くことができませんでした。レストランに入ることもためらい、やっとの思いで小さなパック牛乳を売っている自動販売機を見つけました。そこで買った牛乳を一口飲んだときのおいしさは、今でも忘れません。

あるプロジェクトで日本人と一緒に働いたときのことです。そこには、英語を話せる人が誰もおらず、私は、当時まだ拙かった日本語を懸命に使って、その仕事にあたっていました。ある日、アメリカ人の友人が訪ねてきて、英語でおしゃべりを楽しみました。その友人が帰った後、日本人の同僚の1人が、不思議そうな表情で「ハイランドさんが英語を話しているのを聞くまでは、言葉が不自由なのだと思ってましたよ」と言ってきたのです。とほほ。でも、最終的には日本語をマスターできました。

漢字を知ることは、冒険のようでした。私が頼りにしていたのが、「ネルソン最新漢英辞典 (Nelson The Original Modern Reader’s Japanese-English Character Dictionary)」、基本的な漢字の筆順を教えてくれる指南書(左利きには難しいときもありますが)、そして難解な言葉をなぜか簡潔に説明できる「広辞苑」でした。今では、ほとんどの日本語学習者たちが辞書アプリを使っていますが、私は今でも、これらの辞書を愛用しています。

外交官として国務省に勤務する前に、東京で1年間ジャーナリストをしていました。この仕事に就けたのは、日本語を話し、読むことができたからです。このことから、言語は新しい分野にチャレンジするための素晴らしい手段になることを実感しました。

その後、他の外国語も習得しましたが、外国語学習で大切なのは、言語を混同しないよう気をつけることです。ワシントンにある国務省付属外務研修所でスペイン語を勉強していたときのことです。ある雨の日に教室を出て自宅に帰ろうとしたところ、傘を忘れたことに気がつきました。教室に戻り、自信満々で「Se me olvido mi casa」と言いました。私は「傘を忘れました」と言ったつもりでしたが、実は「家を忘れてきました!」と言ってしまったのです。日本語の「傘」とスペイン語の「casa」がごっちゃになっていたのです。スペイン語で「casa」は「家」を意味します。その後、先生とクラスメートたちが大爆笑したのは言うまでもありません。

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2014年4月、オバマ大統領と安倍首相は、2020年までに日米間の留学生数を倍増させる目標を表明しました。人と人との絆を育み続けることがとても重要だからです。そのコミュニケーションの重要な鍵となるのが、言語です。英語学習者の皆さん、そして日本語を勉強している外国人の皆さん、根気強く、勉強を続けてください。言語学習は、「ゼロ」から始まります。忘れないでください。

日本の学生の皆さんと日本語で交流しました

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