マイケル・ラフ

ジェシカ・スターンは、LGBTQI+の人たちの人権擁護を担当する特使です。以前は世界各地でLGBTQI+コミュニティーを擁護する活動に長年取り組んでいました。

「LGBTQI+の人権促進で私が掲げる目標の一つは、人権が尊重、保護されるまで待たなければならない時間を短くすること」と言います。「50年前はもっとひどかったという人もいますが、だからといって現在が十分に良い状況だとは言えません。差別や暴力を受けて生活している人には、今すぐ保護が必要です。だからこそあらゆる場所で、LGBTQI+の人たちが前進できるよう取り組みを加速していかなければなりません」

スターンの仕事は、各国政府、市民社会団体、民間企業と連携し、世界中のLGBTQI+コミュニティーの人権尊重を平等に進めていくことです。

「世界でLGBTQI+の人たちの人権を外交政策に組み込んでいる国はほとんどありません。アメリカ政府は、人権の普遍性を尊重することで非常に大きな影響を与えることも、そして人々に希望と勇気を与える原動力になることもできます」

スターンがインタビューの中で掲げた優先課題には以下のものがあります。

  • 同性間性行為の非犯罪化
  • 合法的な性認識の擁護
  • 非差別的政策の強化
  • 性暴力に関する法を拡大し、婚姻関係や異性間関係に限定しないようにする

スターンは国務省に入省する前、世界中でジェンダー・セクシュアリティ・人権の擁護に取り組む活動家でした。特使になる直前は、ニューヨーク市に本部がある人権団体「アウトライト・アクション・インターナショナル」でエグゼクティブディレクターとして働き、他機関と協力して、国連に性的指向と性自認に関する第三者の専門家を置くよう働きかけました。これは、LGBTQI+コミュニティーにとって歴史的な勝利と考えられています。

アウトリーチ・アクション・インターナショナル主催のアウトサミット2020で発言するジェシカ・スターン。2019年、ニューヨーク市立大学法学部で開催 (Courtesy of OutRight Action International)

アウトリーチ・アクション・インターナショナル主催のアウトサミット2020で発言するジェシカ・スターン。2019年、ニューヨーク市立大学法学部で開催 (Courtesy of OutRight Action International)

スターンは、メキシコ、英国、ウルグアイに住んだことがあり、LGBTQI+の人たちが尊厳を持って扱われ、保護されている地域の中で進歩がみられた場所もあると言います。しかし、LGBTQI+の人たちの権利が攻撃され、5年前に比べて安全とは言い切れなくなった場所もあります。

LGBTQI+の人たちが求めているのは特別な人権ではありません。嫌がらせを受けることなく学校に行く、差別されることなく就職する、恥辱的な気持ちを持たず医師に健康相談する。こういった他の人たちと同じ権利を求めているだけだとスターンは言います。

LGBTQI+の人たちは、同性間の性行為、あるいは性自認を公に表明したということから、恣意的な逮捕や迫害の脅威に直面すべきではありません。スターンは、「私たちに必要なのは、LGBTQI+の人たちの人間性に焦点を当て、彼らの人権を擁護する団体を支援すること」と訴えます。

国家が特権階級ではなく、最も脆弱な立場にいる人たちをどれだけ大切に守っているか。スターンは、法の支配が真に試されるのはこの部分にあると指摘します。

バイデン大統領は2021年2月、世界中のレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア、インターセックスの人たちの人権擁護に関する覚書を発令し、LGBTQI+の人たちの人権に関するアメリカの外交政策の骨格を示しました。

覚書にはこう記されています。

「いかなる人も尊重と尊厳を持って扱われるべきであり、自分が誰であろうとも、誰を愛しているかにも関係なく、恐れることなく生きられるようにすべきである」

この特使職に任命されたのはスターンが2人目です。前任者はランディ・ベリー大使で、2015年から2017年まで務めました。

スターンは言います。「LGBTQI+の人たちを認めることは社会構造をむしばみ、国家の安定を損なうと考える人もいます。しかし、国を強くするのは、多様性、そして何人にも除外することなく与えられる平等の人権なのです」

バナーイメージ:ジェシカ・スターン。国務省のLGBTQI+人権促進担当特使 (State Dept./D.A. Peterson)