11月に開催される大統領選挙で共和党、民主党はそれぞれ、勝利が確実な州をいくつか持っています。しかしその一方で、予想が難しい「激戦州」があるのも事実です。

激戦州は政党支持者の数が拮抗し、昨今の選挙では民主党と共和党の間を支持が行ったり来たりしました。このような州はまさに熾烈な選挙戦が繰り広げられる戦場であり、候補者は的を絞った遊説活動や宣伝、人員配備を行います。

専門家の間では見解が分かれますが、クック政治報告書は、アリゾナ州、フロリダ州、ミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州を激戦州と位置付けています。一方、ニューハンプシャー州、ノースカロライナ州などを加える専門家もいます。

激戦州と選挙人団

11月の選挙でアメリカ人が直接選ぶのは、大統領ではありません。選挙人団のメンバーにあたる選挙人を選びます。選挙人は、州の有権者の過半数が投じた票に基づいて、12月に投票します。各州の選挙人の数は人口に応じて割り当てられています。例えば、人口の多いフロリダ州の選挙人票は29票です(ニューヨーク州と同数で、カリフォルニア州とテキサス州に次いで多い)。大統領選に勝利するには270票の選挙人票が必要となります。よってフロリダなどの州で勝つと大統領になれる可能性が高くなります。

下の左の地図は、皆さんがよく見るアメリカ50州です。対して右側は、選挙人の数に比例した州の大きさを表しています。

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フロリダ ― 特別な選挙区

お茶会に紛れ込んだセントバーナードの子犬を想像してみてください。子犬は何をしですかわかりません。また子犬とはいえ、セントバーナードですから体格も立派です。大統領選のフロリダ州はまさにこの子犬のような存在です。つまり決して無視できない存在なのです。

フロリダ州では大統領選のたびに支持政党が変わってきました。2008年は民主党候補者のバラク・オバマを、その8年前の選挙では共和党候補者のジョージ・W・ブッシュを支持しました。「選挙人票が29票ある州を決して侮ってはいけない」。フォーダム大学で政治学を教えるクリスティーナ・グリア教授はこう言います。フロリダ州を制する者は大統領選を制す。このことは1964年から不思議な信条となっています。

フロリダ州の有権者は、大統領選で自分たちの存在感を示す機会が2回あります。最初の機会は3月17日の州予備選挙。有権者が政党の指名候補者を決める日です。もう一つは11月3日の大統領選で、民主党、共和党の指名候補者、無所属の候補者、あるいは投票用紙に記載されたその他の政党の候補者から選びます。

グリア教授は、フロリダ州の支持は「拮抗している」と語ります。「ミシシッピ州なら共和党支持と現時点で断定することができますが、フロリダ州の大統領選は予測することができません」

過去2回のフロリダ州の大統領選と知事選の得票差は1%でした。あの有名な2000年の大統領選は大接戦となり、数週間かけて投票数を再集計した結果、アル・ゴアではなくジョージ・W・ブッシュに軍配が上がりました。この判定はその後最高裁でも確認されました。

今年のフロリダ州予備選の焦点となるのは、民主党の候補者指名です。州規定によると、3月17日の予備選に投票できるのは政党に登録した人のみとなる可能性があります。フロリダの投票パターンを長年研究するサウスフロリダ大学政治学部のスーザン・マクマナス名誉教授によると、州の有権者の約37%が民主党員、35%が共和党員、27%が無党派層です。

無党派層は3月の予備選挙では投票しませんが、11月の総選挙では鍵を握る存在で、州の投票動向に大きな影響を与えます。無党派層は政党が決定した政策を非難せず、代わりに候補者の考え方や本質に着目します。「彼らは2大政党制に嫌気がさしています。2極化を嫌っているのです」と、マクマナス教授は指摘します。

フロリダ州は高齢人口が多いことで知られていますが、州の有権者イコール高齢者という考えはもはや一般的ではありません。「フロリダ州は高齢者ばかりという考えはでたらめ」とマクマナス教授は言います。事実、登録済み有権者の54%は1965年以降に生まれた世代で、このような若者層の多くは無党派です。

また女性は有権者の大半を占めることから、特に民主党にとって予備選挙と本選で重要な要素となります。フロリダの登録済み民主党員のうち58%が女性、男性は39%です。グリア教授は、フロリダ州の有権者の別の多様性を指摘します。例えば、ラテン系有権者には、共和党寄りのキューバ系移民と民主党寄りのプエルトリコ住民がいますし、毎年冬になると中西部や北東部からフロリダに避寒してくる住民も有権者として登録しています。またフロリダには大都市や農村地帯もあります。「ジャクソンビルといった昔ながらの保守的な町もあれば、ヨーロッパの都市のようなマイアミもあります」とグリア教授は説明します。

フロリダの多様性は、候補者がアメリカ全体の有権者動向を把握するうえで自分たちの選挙戦略を試せる場であることを示しています。マクマナス教授はフロリダを、「問題がどのように展開し、いかにして多様な有権者と交流を持つかを試せる実験の場」と言います。

バナーイメージ:「激戦州」ミシガンの予備選挙に向かう有権者たち。3月10日撮影。コロナウイルス予防のためマスクをしている。