アメリカの有権者は大統領選挙で、「ハグナー・ミスター」もしくは「レックス・テター」といった人に投票します。

おそらく「ミスター」や「テター」を知っている人はいないでしょう。2016年の大統領選でもほとんどの有権者が、この2人に投票しながらもこの人たちを知りませんでした。ミスターとテターは「大統領選挙人」と呼ばれる人で、アメリカの大統領選の仕組みで需要な役割を果たす「選挙人団」を構成しています。

選挙人を選ぶのは州の各政党です。選挙人は大統領選挙後に集まり、大統領を選びます。有権者の投票用紙には大統領候補者の名前しか書かれていませんが、実際には有権者はある候補者を選ぶと約束した選挙人を選んでいます(2016年の大統領選では、メリーランド州農政長官だったミスターはヒラリー・クリントンを、テキサス州の教会牧師であるテターはドナルド・トランプへの投票を公約していた)。

2020年アメリカ大統領選挙カレンダー。クリックで拡大 (State Dept./M. Rios)

2020年アメリカ大統領選挙カレンダー。クリックで拡大 (State Dept./M. Rios)

「選挙人団は説明するのが難しい制度」、こう語るのは市民教育に重点的に取り組む超党派研究機関、ルイビル大学マコーネルセンターのディレクター、ゲーリー・グレッグです。各州が持つ選挙人の数は、州の下院議員の議席数に2人を加えたもので、この2人は各州に割り当てられている上院の議席数にあたります。このような選挙人が次期大統領を選びます。

選挙人制度の始まり

合衆国建国の父たちは、業務を進める行政権を持ち、独裁政治を防ぎ国民を代表する大統領制を生み出しました。

グレッグ氏によると、人口が分散し、今日のような通信手段も、候補者を吟味できる政党制度もなかった時代では、国民による直接投票は真剣に検討されませんでした。選挙は数人の候補者による接戦で終り、下院が大統領を選ぶということが頻繁に起こる可能性もあったのです。

連邦議会議員に基づく選挙人の仕組みは、州選出議員における州間の妥協案を表しています。人口の多い州は下院議席数も多く割り当てられます。一方で人口の少ない州は、人口の多い州同様に上院の議席数(2議席)が割り当てられます。

コロンビア特別区と48州では、その州で勝った候補者が、僅差、大差による勝利に関係なく選挙人票を全て獲得できる勝者総取り方式を採用しています。一方、ネブラスカ州とメーン州は、選挙人票を候補者に割り当てる仕組みを採用しています。

クリックで拡大 (State Dept./J. Maruszewski; Images: © Shutterstock)

クリックで拡大 (State Dept./J. Maruszewski; Images: © Shutterstock)

「ワールドシリーズでは、得点を多く獲得したチームではなく、試合勝ち数が最も多いチームが優勝チーム」。マサチューセッツ大学アマースト校政治学部のアメル・アーメド准教授は、選挙人団の仕組みを野球のワールドシリーズと比較してこのように説明します。

この仕組みでは、大統領選のたびに支持政党が変わるいわゆる「激戦州」が候補者に大きな影響力を持つようになると、アーメド准教授は言います。

一方グレッグ氏は、過去70年間の選挙は共和党・民主党両党の大統領を選出してきたことから、選挙人団の仕組みは機能していると言います。「選挙人団制度は有権者に効果的で競争的、かつ有効な選挙制度を提供しています」

結果

選挙人は12月にそれぞれの州で大統領と副大統領に投票し、その投票結果は副大統領でもある上院議長に送られます。議会は1月上旬に召集され、票数の集計を行い、そして上院議長が勝者を発表します。次期大統領は1月20日正午に就任式で宣誓し、合衆国大統領に正式に就任します。