マイケル・ブキャナン

地球の表面の70%以上は水で覆われています。では、世界の海洋ではどのようなルールが適用されるのでしょう?

そこには国際法の基本原則「海洋の自由」が適用されます。この原則は、通商、旅行、国家安全保障など、あらゆることに影響するため重要です。

何千年もの間、私たちは暮らしや通商、探検・発見を海に頼ってきました。国際海事法の制度は、安全保障、通商、資源などの分野におけるさまざまな利益のバランスを取る必要性から生まれたものです。

海域はどこでも同じように扱われるのか?

そうではありません。明確に定義された国際法典は、海上でのあらゆる主張や活動の枠組みを提供し、そのルールは場所によって異なります。

歴史的に見ても、各国は自国の海岸線に沿った水域や、どこまでの海域に完全な主権があるか、つまり、陸地と同じように海域でも管轄権や支配権を行使できるかについて、あらゆる主張をしてきました。

1778年、メルカトル図法で描かれた航海用のベリンの世界地図。船員は長い航海でも方位を計算し直す必要がなかった (© Artokoloro Quint Lox Limited/Alamy)

1778年、メルカトル図法で描かれた航海用のベリンの世界地図。船員は長い航海でも方位を計算し直す必要がなかった (© Artokoloro Quint Lox Limited/Alamy)

議論を重ねた末、沿岸国が主権を持つことができるのは、「領海」と呼ばれる海岸線近くの狭い帯状の水域に限られるというルールが生まれました。その先の「公海」は、誰もが自由に航海でき、どの国にも属さないと宣言されました。

長期間にわたって、領海は国家が陸からコントロールできる範囲まででした。それは、海岸から発射される大砲の距離と関連し、約3海里(5.6km)と考えられていました。1982年の国連海洋法条約の交渉により、領海主張の許容範囲は12海里(22km)に拡大されました。

では、「国際水域」とは?

「国際水域」という言葉は、実は国際法では定義されていません。場所によって程度の差はありますが、全ての海洋は国際的です。例えば、ある国の領海では、全ての国の船舶が「無害通航」の権利を有します。しかし、「国際水域」という言葉は、どの国の領海も超えた水域を指す非公式な略語として使われることもあります。

国家は、海岸から12海里(22km)までの領海を管理するが、その領海または24海里(44km)までの「接続水域」の領海内で発生した関税法、財政法、出入国管理法、衛生法などの違反を処罰することができる。また国家は、海岸から200海里(370km)までの排他的経済水域内の全ての経済資源を管理することができる (State Dept./S. Gemeny Wilkinson)

国家は、海岸から12海里(22km)までの領海を管理するが、その領海または24海里(44km)までの「接続水域」の領海内で発生した関税法、財政法、出入国管理法、衛生法などの違反を処罰することができる。また国家は、海岸から200海里(370km)までの排他的経済水域内の全ての経済資源を管理することができる (State Dept./S. Gemeny Wilkinson)

これらの海域では、全ての国が航行や上空飛行の自由などの「公海上の自由」やその他の合法的な海洋利用を享受しています。一般的には、どの国の船舶であっても、たとえ内陸国の旗を掲げた船舶であっても、他国からの干渉を受けることなく、これらの自由を行使する権利があるということです。このような国際慣習法の制度は、国連海洋法条約に反映されています。

国連海洋法条約では、もう一つ重要な海域が定められています。沿岸国は、沖合200海里(370km)までの範囲で、「排他的経済水域(EEZ)」を主張することができます。そのゾーンでは、漁業の管理や、海や風からのエネルギー生産などの限られた目的のため、国が特定の権利と管轄権を有します。海洋の伝統的利用に関して米国は、国連海洋法条約が国際慣習法を反映し、全ての国を拘束すると考えます。

2つの国の領海やEEZが重なった場合はどうなるのでしょう? その場合は、両国が主張する境界を定める海洋境界線に合意する必要があります。

国際水域で起きていること

実に多くのことが起きています。

約9万隻の商船が国家間の物資を輸送しています。また、全ての国が国際水域に海底パイプやケーブルを敷設することができます。EEZや公海上での漁業も重要です。

イギリスのテムズ河口にある洋上風力発電所「ロンドンアレイ(London Array)」の航空写真。この世界最大の風力発電所は、ドイツのエル・ヴェー・エー(RWE)、デンマークのオーステッド(Orsted)、アブダビのマスダール(Masdar)、カナダのケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)のパートナーシップによる。2014年2月3日撮影 (© Thomas Trutschel/Photothek/Getty Images)

イギリスのテムズ河口にある洋上風力発電所「ロンドンアレイ(London Array)」の航空写真。この世界最大の風力発電所は、ドイツのエル・ヴェー・エー(RWE)、デンマークのオーステッド(Orsted)、アブダビのマスダール(Masdar)、カナダのケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)のパートナーシップによる。2014年2月3日撮影 (© Thomas Trutschel/Photothek/Getty Images)

しかし、領海内であっても、全ての船舶(軍艦を含む)には無害通航権があり、沿岸国の平和、正常な秩序または安全保障を乱すとみなされる特定の活動に従事しない限り、領海を迅速に通過することができます。時には、海洋へのアクセスや使用を違法に制限しようとする過剰な海洋主張を行う国もあります。

このような場合、米国国務省は、不法な主張をしている政府に対して抗議を行い、国連海洋法条約に反映される国際法に則った主張を行うよう、その国に働きかけます。また、海洋の自由という国際原則を主張するため、国防総省が「航行の自由作戦」を行うこともあります。例えば、ある国が船舶の航行権や自由の行使を制限すると公言して過剰な主張をしている海域に艦艇を派遣することなどが考えられます。

米国は、同盟国やパートナー国の過剰な主張に抗議することを含め、沿岸国であるかどうかにかかわらず、原則に基づいて過剰な海洋主張に抗議し、航行の自由作戦を実施します。

2018年3月、インド洋で行われた航行の自由のための演習に参加した艦船 (U.S. Navy/Morgan K. Nall)

2018年3月、インド洋で行われた航行の自由のための演習に参加した艦船 (U.S. Navy/Morgan K. Nall)

2017年に米国は、カンボジア、中国、インド、インドネシア、マレーシア、モルディブ、フィリピン、スリランカ、ベトナムなど、約20カ国の沿岸で航行の自由作戦を実施しました。

海賊の影響

国際水域での海賊行為は、人々や国際通商に大きな被害をもたらします。海賊の襲撃は、人道支援の妨げとなり、貿易物品の費用を上げ、船員を危険にさらします。

アデン湾での多国籍海賊対処作戦の一環として、船舶に乗り込む準備をする米国沿岸警備隊員 (Cassandra Thompson/U.S. Navy/Getty Images)

アデン湾での多国籍海賊対処作戦の一環として、船舶に乗り込む準備をする米国沿岸警備隊員 (Cassandra Thompson/U.S. Navy/Getty Images)

国連海洋法条約が示すように、全ての国は海賊を阻止するため協力する義務があります。いかなる国も公海上で海賊を逮捕し、裁判にかけることができます。この長年にわたる国際法の原則は、国家が「普遍的管轄権」を享受するまれな例です。

*この記事は、ShareAmericaに掲載された英文を翻訳したものです。