中島聖宣 在日米国大使館 報道室インターン

“Microsoft”―この会社を耳にしたことのない人は、おそらくいないだろう。コンピューターOSのWindowsであまりにも有名な、世界的企業である。「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」という企業ミッションの下、クラウド型サービスOffice 365の教育機関向けの無償提供や幅広いインターンシップなど、学生を支援するプログラムも運営している。今回は、その日本法人である日本マイクロソフト株式会社の代表取締役社長、平野拓也氏にご自身の留学経験や、日本の若者に求められることについてお話を伺った。

今回、平野社長にインタビューをお願いした理由は大きく分けて2つある。1つは平野社長が日本マイクロソフトの社長になるまでの経験について知りたいと思ったからであり、2つ目は留学と就職活動の関係についてどう考えるか、直接企業の社長から伺いたかったからである。

アメリカン・ビューのインタビューに答える平野社長(右)

不安を吹き飛ばす楽しさ

平野社長は日本の高校を卒業後、アメリカのブリガムヤング大学へ進学し、1995年に卒業した。平野社長は母親がアメリカ人ということで、他の日本人よりアメリカの大学へ進学する抵抗感は少なかったが、それでも日本とは全く異なる教育制度や環境の中で勉強することになるため、今までの勉強の仕方との違いや、友人との関係などに不安があったという。しかし、その不安を帳消しにするくらいのワクワク感がアメリカ留学にはあり、新しい経験に対する期待が膨らんだと話す。

平野社長はアメリカの大学に進学した理由として、自分の力試しがしたいと思ったことを挙げた。「日本にも素晴らしい学校がたくさんあるとは思いますが、1回しか生きない人生を日本だけで終わったらつまらないと思ったのです。海外に行って、自分がどこまで通用するのか試してみたい、自分の知見をもっと深めたいと考えたわけです」。平野社長はこう話す。

大学生活にプラスアルファを

アメリカの大学では日々の授業に加え、学外の活動としてさまざまなところでインターンとして働いたという。大学の授業には真面目に出席し、良い成績も取っていたが、それだけでは他の人と変わらない。平野社長は自身を差別化するためにも、授業だけでなく、社会に出てインターンシップ等の活動をすることで、大学の授業だけでは得られない社会における経験値を蓄積しようと考えた。実際に、教授のアシスタントや語学の授業のアシスタント、アラスカでのツアーガイドのインターンシップなどの仕事を大学在学中に経験したという。

「自分自身がどれほどの知見を持ち、何に興味があるかを社会人になってから試すのは大変だと思います。一回失敗したら終わりみたいな風潮がありますから。大学を出る前にこうした試行錯誤を何回も繰り返したほうがよほど賢明な気がして、さまざまなインターンシップをしました」と平野社長は言う。

エピソードの1つとして、ワシントンDCの商務省でのインターンシップに応募した時のことを笑いながら話してくれた。「ワシントンDCのいろいろな機関にインターンシップの申し込みをしていましたが、学校を通さずに自分でやっていたのでなかなか決まりませんでした。それで、インターンシップが決まる前に、ワシントンDCに行く飛行機のチケットだけ買ってしまったのです。商務省でのインターンシップが決まったのは飛行機に乗る前日でした」

平野社長はアメリカでの大学生活を振り返り、大学時代に多数のインターンシップ経験があったことが評価され、就職先に困らなかったと語った。「アメリカに行かなければ、あのような機会はなかったでしょう」

グローバルな視点でキャリア考えるをテーマに開催された大学生向けのパネルディスカッションに参加した平野社長(写真提供:日本マイクロソフト株式会社)

日本の高校生・大学生に求められることとは

日本の高校生・大学生に求められている最も大切な能力は「comfort zone」を破る力だと平野社長は言う。「comfort zone」を破るとは、今いる慣れた環境をあえて離れ、自分の目標の実現に向け努力することである。特に日本人は、「comfort zone」を破ることに消極的であると平野社長は感じているという。

平野社長は今の日本社会について、アインシュタインが言ったとされる「insanity=狂気」の定義、「同じことを繰り返し行い、違う結果を期待すること」そのものであり、「comfort zone」を破っていないと語る。そして、今の高校生・大学生が個人の目標を実現するためには、過去のやり方を踏襲するのではなく、5年先を見て今、何をすべきかを決める生き方をしなければならないと話す。

その一例として、平野社長は現在の大学生の就職活動を挙げた。「本当にやりたい仕事があるのであれば、就職活動のサイクルと関係なくやればいいと思います。本当にほれ込んでやりたい仕事ならば、4月の合同説明会に行って、資料を集めてという(決められたスケジュールに乗って就職活動をする)のだけでなく、その会社の社長に直接会いに行くなり、メールを出してみたり、自分のパッションを行動に移してみる、そういう考えも持ってほしい。『comfort zone』を破ることを考えなければ、損得勘定や就職活動のタイミングで留学を諦めてしまうこともありますよね。しかし、私は諦めるべきではないと思います。人生1回しかないのだから、もう少しいっぱい失敗していいのではないかと思います」と平野社長は言う。

Be something

平野社長からインタビューの最後に、ご自身が学生時代に心に留めていた言葉を教えていただいた。

“Be something”

この言葉に込める真意を平野社長は明かされなかったが、「ひとかどの人物になる」つまり「何か意味のあることをなす」ということではないだろうか。そしてそのために「取りあえず行動する。行動しなければ何も始まらない」というのが平野社長の哲学だと思う。「Be something」は、学生時代にさまざまな場所でインターンや課外活動を積極的に行った、平野社長の人生そのものを表している言葉ではないだろうか。